5市場

「そうか。あの二人に断られたか。何か策を考えなければな。」

 書斎の様な所で何か言葉を発している。食夜は片手に小説、もう片方の手には頬をのせている。その目は鋭く使いを見つめてる。

「申し訳ありません。この様な策はどうでしょう。」

 使いが提案する。

「ほう。聞こうか。」

 しかし食夜は使いの方を向かず、小説に興味を示している。

「一度、あの御二方を祭へ招待するのです。演奏者としてでは無く、お客様として。」

 食夜が横目で使いを見る。窓からの逆光で影が濃くなり、さらに冷たさが増す。

「……。まぁ一度は試しだ。やってみる。」

 呆れた様な声で言われる。

「ありがとうございます。では。」

 お辞儀したと同時に、使いの髪が重力で下がる。ドアノブに手を伸ばす。

「おい、待て。そろそろ品物が溜まってきてる頃だろ。売り捌いてこい。」

「承知致しました。」

―――――――――――――――

「んー。あそこ怖いんですよねぇ。あんま行きたくね。」

 売り屋の前に立つ。禍々しい雰囲気を醸し出している。使いは眉間に皺を寄せる。暖簾をくぐる。

「いらっしゃい。」

 独特な服を着た店主が、不思議な声で言った。

 それにしてもここは、物が多すぎる。棚にぎっしり何か分からない物が置いている。触れたり、壊したりしたら死んでしまいそうだ。

 店主に品物を差し出す。

「毎度。」

――――――

「んー。あんまお金にならなかったなぁ。」

 天に財布を向ける。

 ――!

 使いの正面に、前会った無神経な奴がいる。何でいるんだ。

「よ。また会うとは、なんか話そうぜ!」

「遠慮させていただきます。急ぎの用があるので。」

 面倒だ。すぐどこかに行こう。

「えー……ちぇ。」

「では。」

 その場を去る。

 ――――――――――――――

「……。」

後ろから跡をつかれている。あいつが。誰もいない裏路地。いい機会だ。ちょっと驚かせてやろう。そうすれば、もう関わってこないだろう。

「何してるんですか。ついてこないでください。」 

背後から近くで話かける。

「?! え!さっきまで前にいたのに!」

 両手で口を押さえる。言ってしまった、と言う仕草をしている。

「私の跡を付けて面白いですか。なんとまぁ暇な方ですねぇ。」

 奇妙な笑いで問いかける。

「……!ごめん!」

 下を向く。が、すぐこちらを見られる。

「なんか、何故かお前が、俺を救ってくれるような気がして!だから付いてきたんだ……。迷惑だったよな。」

 真っ直ぐで、不純物なんて混じってない目を向けられる。

 やっぱ変だこいつ。こんな世の中で、しかも見知らぬ誰かに救ってくれる、なんて。夢物語だ。しかも俺、なんかその真逆だ。

「あなたの事情は知らないですが、あまり他の奴らを信頼しちゃ駄目ですよ。痛い目にあう。それに私はその様な要望には、一切答えませんよ。」

 声色を変えず言う。変えてない筈だ。

「……!だよな……。」

 目の前の奴が、泣きそうになってる。無視しなければ。後ろを向く。

「ぶわ!!」

 何か喚いている。おそらく、話していた背後でやばい奴が今、襲って来たのだろう。

「痛い……!」

 血が地面に落とした音がした。

 あんなやつほっとけ。どうせすぐ死ぬ。それなのに、足が動いてしまった。

 使いの羽織りが宙を舞う。

 ドッ

「大丈夫ですか。」

 返り血がとぶ。優しい笑顔で振り向いてしまった。すぐにやめる。

「……ではないようですね。処置を。」

 膝を立て、包帯で傷の負った部分を巻いてやる。巻いた跡の包帯が血で赤く滲んでいく。

「あ…ありがとう……。」

「いえ。」

     

 二人に長い沈黙が流れる。

 あんな冷たい事を言ったのに、助けてしまった。救ってくれるなんて言われるから。

 いつも使いは笑顔なのに珍しく真顔だ。横目で隣の奴を見た。ぼーっとしてる。

「……!ごめんなさい。私、戻らなければ。」

「ん。そうなのか。ごめん、こんな道草食わせて。もう関わらないから。約束する……。」

 時間を忘れたのは、いつ頃からだっただろうか。何故か名残惜しい。

 正面に立って向かい合う。

「もう、危ない目に会うなよ。」

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