4迷い
「おっと、また一つ迷いがきましたねぇ。」
もう陽が傾いている。神社で二人の影が物語っていた。
「何ここ?あんた誰?」
さっきまで知っている景色だったのに、いつの間にか未知の景色が広がっている。
「んふふ。どこでしょうねぇ。私も分かりません。私は使いですよ。」
「使い」がこっちにアオリ顔で近づいてくる。何故か分かる。人間ではない。
「使い?なにそれ。あんたもここに迷い込んだの?」
坦々と聞く。何も知らずに。
「んふふ。どうでしょうねぇ。迷い込んだのかもしれません。」
気持ち悪い笑顔だ。見ているだけで寒気がする。
「ぼく、帰り方分かんなくって……。助けてくれる?」
「助ける……ですか。んふふ。都合の良い事を。」
また笑った。冬の中にいる気分だ。背筋が凍る。
「うっ、さっきからなんなんだよ……。笑って…。ぼく、ここ怖いんだよ……!助けるなら助けてくれよ!」
「おや、怒らせてしまいましたか。私はただ、貴方の質問に答えただけですのに。あぁーあ。助けようと思ってたんですけどねぇ。そうおっしゃるのなら仕方がありません。」
使いが距離を詰めてくる。本能が叫ぶ。逃げろ。
「来るな……!」
必死で逃げる。足がすくんで上手く操れない。もっと速く逃げなきゃ。
「逃げるのですか。いいでしょう。様々な方法で私を楽しませてください。」
使いは逆で、ゆっくりと人に歩み寄る。
ぐいっ。
身体が引っ張られる。紫陽花の短い枝が服を引っ張った。紫陽花はしがみついていた。
「こんな時に限って……!」
背後で砂が、じゃりじゃりと擦る音が近づいてくる。
「待ってくださいまし。私はただ貴方と話がしたいだけですからねぇ。」
「……っ!いた!」
使いに足を斬られた。傷が空気に触れてひりひりする。
はやく、はやくにげな
身体がスカーフのように軽くなる。眼が開けない。頭から生暖かい血が伝い垂れる。湿った地面に倒れ込む。その途端に身体に重石が乗る。重い。
「んふふ。まだ意識はあるようですねぇ。貴方はどんな人生でしたか。」
顎に細過ぎる手を乗せ、見下ろしてくる。逆光でさらに気味の悪さが増す。
「……っぁ。ごめん……。おれのおとうと…。こんなにぃちゃんで……。」
一人の音が静かになった。音がしない身体に、太陽が包み込む。
「おやおやぁ、まだそんなにお話できていませんよ。……まぁ仕方の無い事です。」
使いは、気味の悪い笑顔のまんまだ。暖かい陽が頬を照らす。しかし今度は何故か、ただ一人で切ない顔をしていた。
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