3誘い

「あの二人はどうなった。」

食夜と使いが話している。二人の音が廊下に響き渡る。

「祭への御招待の件ですね。何度も送っていますが、全て拒否されています。」

「ほぅ。そうか。ならばお前が直接行って、説得してこい。」

「承知致しました。」

 使いが丁寧にお辞儀した。

 ――――――――――――――――――――

「えぇっと。御二方の場所は。」

 地図に目をやる。結構遠い。

「ほんと、俺の使い方が荒いんだから。呆れた。」

 周りに聞こえない声で言う。瓦屋根が永遠に続いている。二人の所へ向かった。

 ――

「ふぅ。少し休憩です。」

 川の付近で、持ってきた麦茶をがぶがぶと飲む。隣に誰か座ってきた。使いの目が冷たくなる。

「なんですか。」

「お前暇か?」

 なんだこいつ。真っ直ぐ目で見られる。

「暇な訳無いじゃないですか。では私はもう行くので。」

立ちあがろうとした。袖を引っ張られる。

「待て待て!話を聞いてくれ!」

 着いてこられても面倒ですね。

「いいでしょう。しかし手短に。」

 使いが顎に手を当てる。相手の目をじっくり見つめる。

「お!やったぁ!」

 で話なんだけど、と座り直した。

「俺さぁ、祭に行きたいんだよ。けど俺の一緒に住んでる奴が、行かせてくれないんだよ。」

「はぁ。そのような事なら、ご友人などに相談しては?赤の他人の私になんて、宛てにならないでしょう。」

早く終わらせなければ。あまり遅いと、主人に呆られてしまう。

「いやいや!あるよ。どうすればいい?」

 興味津々に聞いてくる。

「こっそり貴方一人で祭に行かれたらどうです?」

 こんなやつなんてどうでもいい。

「んー。そう言う手があったかぁ。うん!そうする。ありがとな!」

「いえいえ。」

 使いが愛想笑いした。

「やれやれ、少し急ぎましょうか。」

 ――――――――――――――

「ここでしょうか。うん、合ってます。」

 表札を見る。地図と同じ名前だ。

 ガンガンガン

 ガラス戸を少しだけしか叩いていないけのに、大きな音が鳴る。

「すみません。いらっしゃいますか。」

 木の床を歩く音が近付いてくる。ガラス戸が大きな音を立てて開かれる。

「はぁい。なんでしょうか。」

 朗らかな笑顔で見つめてくる。何もかもが楽しそうだ。

楽観らっかんさん。こんにちは。今日は……」

 んん。と言いたいような顔をしている。

「待って。なんで僕の名前知ってるの。て言うか誰。」

 顔に皺を寄せている。

「失礼致しました。私は、食夜様の使いで御座います。以後お見知り置きを。」

 使いが軽くお辞儀した。前髪が垂れる。楽観は、頭に手を置きポリポリ掻いている。

「あー。あいつか。まぁいい、今日は何のようだ。」

「はい。本日は、祭の件についてお話しがありまして。我々どうしても楽観様のような歌が、必要不可欠なのです。」

 楽観は目を見開く。そりゃそうだ。

「その件は断固拒否だ。何度も言っている…。行く気はない…!」

 段々声が荒くなる。どうすべきか。ここで引くか?いや、そしたら主人に呆られる。どうするか。

「おいおいどうした。」

 楽観の後ろから誰かが歩いてくる。

「楽観、声を上げてなにがあったんだ?」

 眼鏡をかけた真面目そうな奴が、楽観の方を見て問いかけている。

「祭の話だ。この使いとやらが直接交渉に来た。」

 この使いと指を差される。

「おー。そいつはどうもご親切に。けど俺たちゃその祭とやらには興味無いんでね。」

 少し見下ろしで言う。

真目しんめ様、私どもは「祭」が必要なんです。それも御二人方は、充分承知の上でしょう。」

 また、使いも見上げて言う。

「おい。いい加減にしろよ。」

 楽観が拳を強く握って、顔に皺を寄せる。使いを強く睨む。

「落ち着けって。」

 真目が楽観をなぐさめる。

 おや、これはもう無理ですね。諦めましょう。

「おっと。気に触れたようなら謝罪致します。今日はこの辺でお暇させて頂きます。では。」

 お辞儀し、その場から立ち去る。

 ――大丈夫か。少し休もう。

 後ろから真目の声がする。きっと楽観の背中を摩っているだろう。

「無理でしたね。分かっていましたけれど…骨折り損です。さて、帰りましょう。」

 誰にも聞こえない小さな溜め息をついて歩いて行った。

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