第41話 怒りの日

「ウィズユー」


俺の詠唱と共に、ピンク色のハート形スライム状のウィズが姿を現した。俺にしか見えない、俺だけのチートスキル。


――はい。お呼びでしょうかジュンさん。


「キャンデーラを滅ぼしたのは、ヨシモルト興業の奴等、だったよな?」


――はい。奴隷解放ギルドのオロさんの証言が正しければ、キャンデーラ国に強襲し、王国を陥落させたのはヨシモルト興業の軍勢に間違いないと思われます。


「OK。しらみつぶしに調べるのは効率が悪い。皆、ヨシモルト興業や、その中枢を担う人間について何か知らない?」

「おめえさんらよりは、俺ぁ詳しいかもしれねぇな」


ランセが白ワインをくいっと飲み干すと、魔法で羊皮紙と羽筆を取り出し、走り書きを始めた。


ヨシモルト興業→笑顔の国メスガサキの公共事業を取り仕切る団体。奴隷売買事業を推進している。

笑顔の国メスガサキ→最西端に位置する大国。数年前に国王ヘキサガンが変死。今は空位となっている。

ヨシモルト興業二大看板→「マッジャム・グァキノツカヒ」「ハムァダ・フレンチクールラ」


「ちょっ、待てや!」

「ん?」


制止するロッソに対して、怪訝な顔を向け、あんだよ?と言いたげなランセ。


「空位ってつまり、王様が不在っちゅうことやんな?そないなことありえるんか?!」

「そうあることじゃねえが、実際に起きている話だ。なんで、実質、今のメスガサキは、ヨシモルト興業の商人どもが牛耳っている」

「で、そのヨシモルト興業のトップが、その二大看板か」


俺は早速、ランセのメモを見ながらウィズに話しかけた。


「ウィズ、マッジャム・グァキノツカヒを検索して」


――承知しました。


父さんを殺し、キャンデーラを滅ぼし、キャンデーラの皆を売りさばく、奴隷商人のゴミ屑野郎。絶対に許さない。


――ジュンさん。


数秒の検索を終えて、ウィズが無機質な声で俺を呼ぶ。


「どうだった?」


――申し訳ありません。マッジャム・グァキノツカヒは見つかりませんでした。


「嘘だろ!?」

「どうしたジュン?」

「衝撃の事実発覚かジュンちゃん!?」


ウィズの声が聴こえず、見えていないため、ブランとランセが前のめりに聞いてくる。俺のリアクションから察したランセは、はぁ、とため息をつく。


「情報が掴めなかったのか?」

「うん。マッジャム・グァキノツカヒで間違いないんだよね?」

「んー、……シに点々じゃなくてチに点々だったかもしれねえな?」

「口で言ってるからそれは多分関係ない!」

「マッチャムとかマッチャンだったかもしんねえな」


ランセの言葉を聞いて、俺は、似た名前をとにかくウィズに探させた。


が。


収穫はなかった。


――以前もお伝えしたように、『マッチングアプリ』では、幽霊、故人はもちろん、人智を超える神格的存在や、動物、魔物に関しては検索の対象外となります。


「あるいは偽名」


――その可能性もございます。シルバさんの時と同様に。


シルバの名前が出て、俺の脳内に昨夜の光景がよぎった。

昨日の逢瀬、そして接吻を。


いかんいかん。うっかりこいつらに話したら根掘り葉掘り聞かれるに決まっている。性の悦びを知ったのか?性の悦びを知ったのか?そんな風に俺に飛び掛かってくるブランが容易に想像できた俺はすぐさま頭をぶんぶん振った。


「どうしたのだジュン?」


心配するブランに、なんでもない、と俺は笑った。


「気を取り直して、もう一人の男を検索してみるよ。ウィズ、ハムァダ・フレンチクールラを検索して」


――かしこまりました。


マッジャム(偽名?)とは対照的に、物の数秒で、ハムァダ・フレンチクールラのプロフィールが眼の前に表示された。


+++++++++++++++++++++++++++++++++++

ハムァダ・フレンチクールラ(49) 笑顔の国メスガサキ出身

職業:用心棒

189㎝

自己紹介文

はじめましてだな。俺はメスガサキ出身の猩獣人(ハヌマーン)だ。猩獣人は、先の亜人戦争で俺以外全滅した。だからま、猩獣人といえば俺のことだな。『災厄の猩獣人(ハヌマーン)』とかふざけた呼び名つけた奴はしばき倒すから出てこい(笑)

ガキの頃は、メスガサキの繁華街(ダウンタウン)で、相方と一緒に、恐喝まがいのビジネスで身銭を稼いでいたが、ヨシモルト興業を立ち上げたことで、人生は一変した。うちの相方は頭がおかしい狂人だが(王殺しとかイカれてる笑)、神を自称する、世界一おもしれえ男だ。用心棒の枠を超えて、今じゃ、他国に戦争を仕掛け、兵を指揮し、戦争ビジネス+奴隷ビジネスの一翼を担っている。笑いがとまんねえよな、戦争をすればするほど金が生まれる。

いやぁ~、キャンデーラ征伐。傑作だったな。国王が土下座して、自分の首と引き換えに国民の命を保障してほしいと言ったときは、面白すぎて涙が出た。首ちょんぱになった国王の首を掲げたときの国民たちの絶望顔。一生忘れられん(笑)

面白いもんは見れて、商品は増えて、領土も収入もマシマシで、うちの相方様様だな。

俺は相方と違って、商才や考える頭はねえ、サルだから(笑)

だが、俺には、最強の固有スキルがある。俺がいる限り、メスガサキは最強だ。

うちの相方は、今回のキャンデーラ潰しを成し遂げたことで、世連(セレン)の主導権(イニシアチブ)を握った。家柄も地位も名誉も格式も環境もスタートラインも最悪だったうちの相方が、世連(セレン)のトップに立ち、この世界の神になる。最狂最悪のサイコパスクソ野郎が、世界の頂点。糞おもしれえよな。

性格は身内びいき。身内は死んでも守るが、そうでない奴らの命は、うんこと一緒だ。

好きなものはドーナッツ。おもしろいと思うのはうちの相方。嫌いなものは、この世界のほとんどのもの。

固有スキル『臆病者には冷や飯を(チキンライス)』(ランク:S)

(目が合った人間のスキル、魔力を封じる)

剣術S 魔法È 知力È 体力SS


現状マッチング成立確率0%(ハムァダさんがあなたに興味を持つことはきっとないでしょう。キャンデーラの王子と名乗れば話は別ですが)


+++++++++++++++++++++++++++++++++++


殺してやる。


「……ち殺してやる」

「ジュンちゃん?」

「ぶち殺してやる!俺がぶち殺してやる!絶対にぶち殺してやる!!!!!!!!!絶対に絶対に絶対に絶対に絶対に絶対に絶対に絶対に!!!!!ハムァダ・フレンチクールラ!ハムァダ!ハムァダ!ハマダーーーーーーー!!!!!!!!!!!」

「ジュン、落ち着け」

「何が見えたんだジュン!?!!!店ん中だ、冷静になれ!」

「ふざけんなよマジで人の土下座を人の本気を人の命を、俺の父さんの命を、誇りを、愛を、優しさを、人生を、……マジで、……なんだと思ってんだよ……」

「ジュンちゃん?」

「ふざけんなよ……くそ」


父の尊厳を、王との約束を踏みにじり、国民に手を出し、父の死を嘲笑った、この糞猿を、必ず八つ裂きにし、命乞いをさせたところで、糞尿を食べさせ、生首をトイレに突っ込ませて溺死させてやる。生きる価値のない下衆野郎には。


「必ず報いを受けさせてやる」

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