第25話 生きてて良かった
「いや、嘘はやめろ。メリコ様は死んだ」
動揺を隠せないランセに対して俺は話を続ける。
「死体を確認したんですか?」
「それは、してねぇ。けど!墓はしっかり見た!それに、メリコ様の死は世界じゅうで知れ渡ってんだよ!生きてたら絶対噂になる!そうだろ!?」
「ブラン、聞いたことがある。A級冒険者パーティー“
「あぁ、うちのパーティーのことだ。あの時代の人間は皆知っている。おいジュン・キャンデーラ。どういう魂胆か知らねえが、趣味の悪い冗談はやめろ」
「いいえ、メリコ・サマーシノンは生きてます。俺の『マッチングアプリ』は、故人を検索することは出来ない。だけど、彼女のプロフィールは出てきました」
ランセの表情に微かな期待の色が見えた。だが。
「だったらなんで!!!なんで俺に会いに来てくれなかったんだよ!?10年だぞ!?10年!!!!!!!!!!新しい男が出来たか!?子供と仲良く暮らしているのか!?もう俺のことを忘れちまったのかよ!!!!!!!」
ロッソが唸る。せやで、生きてて会いに来えへん理由はないやろ、とこぼす。
「あるんだよ、会えない理由が」
「なんだよ!!!!!!!!?」
俺は、メリコ・サマーシノンのプロフィールが書き写されたメモを、ランセに手渡した。
「え?」
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メリコ・サマーシノン(42) 修羅の国ハクタ出身
職業:元・勇者
167cm
自己紹介文
私はハクタ出身の元・勇者よ。生まれたときから魔王を滅ぼす英雄になりたくて、故郷の仲間と一緒に冒険者パーティーを結成したわ。『神の7人』って聞いたことあるでしょ?10年前だと、最も魔王を倒す可能性のあるパーティーとして、世間をあっと言わせてたんだから。同じパーティーの一員であるランセは、私の幼馴染であり、婚約者よ。一度私の心を踏みにじったから追放したけど、最終的には私を助けてくれた。この世界で心の底から愛する人よ。結局2人ともやられちゃったんだけどね(苦笑)
意識のないランセを担いで村にたどり着いた時、村人に悲鳴をあげられてわかったの。私の左目はつぶれて、顔の右半分は、魔王軍による火球をくらったせいで大火傷、焼けただれていたって。
魔界の炎は、いくらハイポーションを使っても治らない。潰れた左目も戻らなかった。
嘘みたいでしょ?これでも私は女なのよ?こんな顔でどうやってランセに会えっていうの?
本当は会いたかった。死ぬまでランセと一緒に生きていきたかった。
でも、私はもう人がいる世界では生きられなくなった。だって、この顔を他人に見られるのなんて、私のプライドが許さないもの。誰にも見られたくないこの醜い顔を、何よりランセにだけは絶対に見せられない。嫌われたくない。彼に拒絶されたくない。
想像しただけで、怖くて恐ろしくて、絶望の淵にいた私は、村中の人間に金を握らせ、箝口令を敷いた。墓も建てさせた。
メリコ・サマーシノンは死んだのだ、と世間に知らしめた。
あれから10年、私はヒュージ山の「死の森」で仮面をつけて動物たちと暮らしている。毎日、ランセのことを思い出して泣いている。はぁ、ランセ。
誰かと結婚、してるよね。
ウフフ。
そりゃそうよ。
私の愛した男だもの。
女は誰だってほっとかないわ。
ウフフ。
ふふ
訃腑腐怖不憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い!!!!!!!!!!
私を忘れて幸せになっているかもしれないランセが憎くてたまらない!!!!!私を一人にしないで!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
+++++++++++++++++++++++++++++++++
「メリコ様、……ほんとにぃ、……メリコ様が、メリコ様、……ほんとに、生ぎ、生ぎで、生ぎてたのか、めり、メリコ様が、」
メモを見ながら、壮年の魔法使いは大粒の涙をこぼした。すすり泣く。鼻水も止まらない。嗚咽し、むせび泣き、最後に、良かった、と泣き叫んだ。
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1時間後。
「ジュン・キャンデーラ」
ようやく泣き止み、冷静さを取り戻したランセ・アズール、『水神ランセ』と謳われる天才魔法使いは、神妙な面持ちで俺を見つめると、すっと、ひざまずいて、頭を床にこすりつけて土下座した。
って、えええええええ!!!!!!!!?なんでぇ!???????????
「俺はこんなにも、こんなにも、生きていて良かったと思えたことはない!!!!!おめぇのおかげだ!本当に感謝している!!!そして、おめえに対する無礼を詫びさせてくれ!!!!本当にすまなかった!!!!」
「いやいやいや、俺もだいぶ失礼なこと言ったし、おあいこってことで」
「そうはいかねぇ、メリコに会ったあとは、必ずおめぇのところに駆けつける。復讐だろうがなんだろうが俺は力を貸すぜ」
12歳の子供に40過ぎのおっさんが頭を下げているのも中々カオスだが、ランセと信頼関係を結べたのは何よりだ。
それじゃあもう一言言っておこう。
「ありがとうランセさん。そしたら、メリコ様のところには、ブランも連れていってください」
「え?」
「ブランを、か?」
ランセが戸惑い、ブランも首をかしげる。
「ブランのスキル『聖人の左手』なら、彼女の火傷も、左目も治せるだろ?」
「え……?」
「ああなるほど。任せろランセ」
「まじか、……まじで、治せるのか?」
「ブラン、治せない怪我はない」
ランセは頭を下げてブランの左手を両手でがしっと掴み、かたじけねぇとまた泣いた。
「ジュン。俺はおめぇが会いに来てくれた今日という日を絶対忘れねえよ。いつだって俺はおめぇの味方だ。1週間で戻る」
「ありがとう。これからよろしく、ランセ・アズール」
異世界屈指の天才魔法使いが仲間になった。
これで役者はほぼほぼ揃ったな。
1週間後、俺はグチモームスに入国する。
そこでマリヤと会って。マリヤが何を言うか。まだわからない。
けど。返答次第では。
「生まれてこなければよかったって、心の底から思わせてやるからな」
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