第22話 チューしようぜ!
鋭い視線で俺のことを凝視する、奴隷解放ギルドの美女、シルバ。
はぁ。相変わらず“美しい”。ぷっくりとした唇、たまらない。チューしたらやわらかいんだろうな。
って、見とれている場合じゃない!なんで偽名だと思ったか?そりゃあもう、「マッチングアプリ」で検索して出てこなかったんですよ~へへへ、だなんて言えないし!
「えっと。え~っと、あ!その、奴隷解放ギルドの仕事をしていて、本名だったら、色々周りにも危険が及ぶんじゃないかなぁって」
よくわからない言い訳をしてしまって、俺は視線を思わず逸らした。シルバが俺をじっと見ているのが気配でわかる。やっぱり訳わかんないこと言ったか。やばいどうしよ。
「ははははは」
「え?」
「さすがジョン王の御子息だなジュン。君の言う通りだ。シルバ・アージェント。この名前は偽名なのだ。本名が知られては、我々と敵対する奴隷推進派のクズどもたちの魔の手が、故郷の家族、友人たちにまで及ぶ可能性がある」
合ってたんかーい!!!!!!!!!!!!!!!!!ひやひやした!俺はやっぱり、とへらへら笑っておいた。
「それじゃあ本名は?」
「信頼できる、私の仲間になった時に打ち明けさせてもらうよ、では」
そう言って、今度こそ高潔な女戦士は去っていった。
その姿が見えなくなって、ぼそっとロッソが呟いた。
「いいねえーちゃんやったな」
「うむ。性の悦びを教えてやりたくなった」
「素敵だよなぁ。本名はわからなかったけど……」
俺はそう言った瞬間フリーズした。
……。
……。
あれ。
あ。
「オートモードに設定しておけばよかった!!!!!!!!!!!!!!」
「なんやそれ?」
「ブランは知らん」
マジでミスった。俺のスキル「マッチングアプリ」なら、自動で相手のプロフィールを簡易表示することができるんだった!!!!!!!!
しょっちゅう他人のプロフィールが表示されるのがうざったくて、OFFにしていたのが裏目に出た!!!!!
「ウィズ!!!!」
呼ばれて、懐に潜んでいたハート型スライムが顔を出した。
――はい。ジュンさん。
「なんでオートモードにしてくれなかったんだよ!!!」
――ご命令があればいつでもオートモードに設定いたします。
「あんだけシルバさんのプロフィール知りたがってたんだから、気をきかせろよ!」
――私に気をきかせる機能はございません。
「なんだよもう!!!!!!!!!!!!!」
――八つ当たりということでよろしいですね。
********************************
「あのガキ、うちの洞窟付近まで来やがったのか」
ランセ・アズールはため息をついた。
『龍殺しの滝』の滝壺にある薄暗い洞窟の奥深くに所在する寝室に寝転がり、水瓶に映る少年、ジョン・キャンデーラの姿を確認した。
「あらランセ。何をやってるのよ、うっかりさん。私とあなたの愛の巣に、また一人入り込ませるなんて言わないでしょうね?」
高飛車な口調で言うと、全裸でベッドに横たわるメリコ・サマーシノンが、足をばたばたさせて口をとがらせた。
「入ってはこれねえよ」
そう言ったランセは、とんがった婚約者の唇をふさいだ。
チュ
チュチュ
チュチュチュチュチュチュ
チュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュ
チュチュチュチュチュチュチュチュ
チュチュ
「さっきの野郎は例外だ」
数刻前、この聖地に踏み込んだシルバと名乗る戦士のことを思い返す。
見た目に違わず、ずいぶんと腕の立つ剣士だったが、無理矢理この俺を連れ出すような野蛮人ではなかったから、気にせず目の前で、メリアとの営みを見せつけてやった。顔を赤らめてたっけ。ははは。
奴隷解放。
死ぬほど興味ねえ。そんなことして何になる。
正義とか悪とか、正しさとか人の道とか、心底どうでもいい。
めんどくせえ、の一言でしまいだ。
「俺はもう、お前以外とは関わりたくないんだよ」
「あら、私に惚れているのね?」
「愚問もいいところだ、お姫様」
チュチュチュ
チュチュチュチュチュチュチュチュ
チュチュチュ
ハムハムハムハムハムハム
レロレロレロレロレロレロレロレロ
レロレロレロレロ
レッロレロレロレロレロレッロ
ムチュ
ムチュムチュムチュペロペロ
チュ
チュチュチュ
チュ
びちょびちょに濡れた唇を拭いてランセは、婚約者に微笑む。
「ま、並みの奴等じゃ、俺に関わりたくても、関わる前に死んじまうのさ」
そう。
俺は卓越した魔法センスでS級まで上り詰め、水魔法に関してはこの世界に存在する全てを究め尽くした、天才魔法使い、『水神ランセ』だ。
この寝室に踏み込むには、四つのトラップを攻略する必要がある。
一つ目『龍殺しの滝』
こいつがまずやべえ。自然に流れ落ちる滝の水流を、膨大な魔力を付与することで、殺人級の破壊力を持った激流に変えてある。A級ランクの冒険者くらいじゃ、水流に飲まれ、速攻お陀仏だ。
二つ目『水獣の庭』
近隣に生息する魔犬や害獣を水魔法で覆い、操っている。あいつらを倒すにはさっきのシルバとかいう奴と同等の強さがなきゃまず無理だろう。
三つ目『水兵の門番』
俺が水魔法で生み出した兵士。水で作り出しているから消えることはない。倒しても倒しても復活する。
四つ目『鍵』
寝室直前まで来たものを絶望させる張り紙が扉には貼ってある。
“『龍殺しの滝』近くのニレの木の枝に、寝室の『鍵』がある。それを使わないとこの扉は開かない”ってな。実際その鍵を取りに行ってもっかい戻ってこれる奴は、さっきのシルバくらいだろう。ま、俺はそんな鍵なくとも、扉開閉の詠唱呪文 (ま、合言葉みたいなもんだ)である『メリコ愛してる』を言って難なく開けられるんだけどな笑
「まぁ、あのガキが万が一、いや、億が一の確率でここまで来れたら、話の一つでも聞いてやるさ」
そう言うやいなや、ランセは婚約者の蜜壺からしたたる水分に吸い寄せられ、蜜蜂のように愛撫しはじめた。
ああん。
*********************************
それから一時間後。
たくさん愛を育み、一人ベッドの中で寝息を立てているランセ。
そこへ。
「「「メリコ愛してる」」」
メリコあいしてる?
「あ?」
なんだいまの声?
ランセが、幻聴かと思って、寝室の扉の方を見やると、そこにはジュン・キャンデーラ。つまり俺が立っていた。
「はああああああああああああああ!????」
驚いている青髪の壮年魔法使いを見て、俺はドヤりながら挨拶をする。
「お待たせしました。ランセ・アズールさん。俺は、ジュン・キャンデーラ。億が一の確率で、あなたに会いに来ましたよ」
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