第17話 銀髪の女神

銀髪の女戦士、シルバ・アージェントのまとうオーラは、まさに“高潔”だった。


返り血が、彼女の白い肌をより強調させて、純潔な存在感を増長させている。


ああ。



俺の嫌悪する女じゃない。


と思った。


この人に限っては、人を裏切らないだろう。淫欲に溺れる醜悪なビッチになる姿が、まったく想像つかない。


ま、前世と今の人生、トータル6人に浮気・不倫をされた俺が言っても説得力ないが(苦笑)


が、実際のところ、彼女に女特有のいやらしさは一切なく、強く研ぎ澄まされた刃のような“気高さ”のみがにじみ出ていた。


彼女は信頼できると直感した。


話してみたい。どんな人なのか知りたい。


シルバ・アージェント。良い名前だ。


「子供の来るところではないぞ」


シルバと名乗った女戦士は、きれいな碧眼で俺を一瞥し、両手に生首を持って、BARを後にしようとする。


「あ、あの!」

「……なんだ?」

「ま、また会えますか!?」

「神様に聞いてみるといい」


シルバは、銀髪を揺らして暗闇のなかへ消えていった。


「死ぬぅ、ジュン、ちゃ」


ん?


「あ!ごめんロッソ!」


目線を下ろすと、ひゅぅひゅぅと虫の息の虎獣人が。

彼女に見とれて、すっかり忘れていた。


早く宿に運ばないと!


********************************


ロッソの宿泊している宿場についた俺は、ベッドに巨躯の虎獣人を寝かしてやった。


衣服を脱がしてやると、身体じゅうが深々と斬り裂かれていた。


全部彼女がやったんだな。銀髪の姿が再び思い起こされる。いやいや、今はロッソだ。


俺は宿屋から包帯を借りて巻いてやり、更に自分の荷物の中を漁った。しかし入っていたのは薬草数枚と、ポーション1ビンのみだった。

モンスターや山賊のいるような危険な道を避けて移動をしていたのもあり、本腰をいれた買い出しはまだ先だと思って何も買っていなかったのだ。


父さんからもらった旅費はたんまりあるが、この時間だと薬屋やアイテムショップも閉まっている。今日はこれでしのいでもらうしかない。


鋭利な犬歯をこじあけて、薬草を無理やり食わせ、ポーションで流す。ダメージの方がひどく、見た目は変わらず痛々しいが、少しは痛みが和らいだのか、うなる声は若干落ち着いた。宿屋が鎮痛剤と睡眠薬を運んできてくれたので飲ませると、少ししてロッソは眠りについた。


朝になったら、高価なハイポーションを買って飲ませてやろう。


それにしても。


「ウィズ」


――はいジュンさん。御用でしょうか?


ハート形スライムのような見た目のウィズがひょこと姿を現した。


「さっきの彼女を調べたい。シルバ・アージェントで検索して」


――かしこまりました。


ウィズが調べ出す。彼女のプロフィールが気になる。年齢は?今どこにいるのか?何をしているのか?どこの出身なのか?どんな生き方をしてきたのか?どんな性格なのか?恋愛遍歴は?彼氏や夫はいるのか?


俺は、なぜだか久々にそわそわした。


が、

鏡に映る自分を見て少し恥ずかしくなる。


なんつー12歳だ。マセガキが。


――ジュンさん。


「わかった!?」


――いいえ。シルバ・アージェントは見つかりませんでした。


「はぁ!?そんな馬鹿な!ちゃんと探したのか?」


――はい。その結果、見つかりませんでした。


そんな!俺が聞き間違えたのか?


いや。


あるいは。


「偽名?」


――その可能性はございます。正しい名前を頂かないと、特定の相手を見つけることはできません。


「それじゃあ、特定はせず、検索ワードで探すよ」


――かしこまりました。


俺は、銀髪の女、銀髪ロングの女性、女戦士、剣術Sの女性、女神、高潔、処女、純潔、女など、思いつく限りのキーワードで検索をかけた。


しかし、彼女は見つからなかった。


――申し訳ありません。見つかりませんでした。


「そんなぁ~」


3時間ほど格闘したが彼女のプロフィールは見つからなかった。


「マッチングアプリ」が故障したのか?


そう思って他の知り合いを調べたところ、しっかりプロフィールは表示された。「マッチングアプリ」に問題はなさそうだ。


「たとえば、本当に彼女が女神の場合」


――ぞっこんですね、ジュンさん。


「真面目に言ってるんだよ!」


――真面目に言ってたのですか。


「本当に女神の場合、彼女は出てこない?」


――そうですね、人智を超える神格的存在、あるいは、知能のない動物や魔物に関しては検索の対象外になります。あとは、幽霊、故人も検索は出来ません。


「幽霊」


そんなはずはない。彼女は実在した。だから目の前のロッソはボロボロに切り刻まれて苦しんでいる。魔物なわけもない。あんな純潔なオーラ出してたんだ。



となれば。



「マジで女神なのかもしれない」


――……真面目に言ってるんですね。


*********************************


翌朝、手負いだったはずの虎のけたたましい咆哮で目が覚めた。


「どうしたロッソ!????????」

「あの銀髪女にリベンジマッチしたるんや!!!!!マジで許さへんあのアマ!!!」


ロッソは全快復した筋肉質な強靭ボディーをムキムキと動かして吠えていた。


あれ?



全快復している。


俺が寝るまでは、女神につけられた切り傷が全身のいたるところに走っていたのに。まるで昨日の夜の出来事が夢だったかのように、その傷跡は残っていなかった。


驚きを隠せない俺は、ロッソの腕をつかんだ。


「昨日の夜の出来事!夢じゃないよね!?」

「当たり前や!あんなおもろない夢があってたまるかい!」


やっぱり彼女はいたんだ。


じゃあ。


なぜロッソは回復している?


「それじゃあ、どうしてロッソは治っているの?あんなにボロボロだったのに」

「言い訳させてやジュンちゃん!あのアマ、不意打ちしくさってからに、俺がスキルを発動する前に、」

「俺の話を聞け!!!!!!!!!!!!!」

「ごめんジュンちゃん」


ロッソは借りてきた猫のようにしょんぼりした。


「どうして傷が治ってるの?」

「ああそれは、ドワーフが治してくれたんや」

「……ドワーフ?」

「せや、ドワーフで医者で僧侶やっちゅう男が、早朝部屋に入ってきて、ちょちょいと俺んことを治してくれたんや」

「ちょ、ちょ、ちょ、情報量多すぎる!!!ドワーフに医者に僧侶?三人の男が入って来たの?」

「ちゃうちゃう、一人や。僧侶をやっとる、元・医者のドワーフ族の男や」


ドワーフ。


RPGにうとい俺でもわかる。背がすごく小さくて、髭を生やしたマッチョなおっさんな見た目をした、ファンタジー系の話じゃ定番の種族。


「おかしくない?ドワーフって鍛冶職人とかをやってるんじゃないの?」

「ああ言うとったかも。鍛冶職も追加や。鍛冶職人でドワーフで医者で僧侶や」


気になった俺は、早速ウィズを呼んだ。


「検索ワード ドワーフ 医者 僧侶 で探して」


――かしこまりました。


ウィズは、銀髪の彼女、シルバの時とは異なり、数秒でそのドワーフと思われる人物のプロフィールを映し出した。


「ヴァイス・ブランコー。『破戒僧』と揶揄される、元医者のドワーフか」


まだこの近くにいるようだ。


――どうされますか?


「会ってみよう。ロッソのお礼も言いたいし」

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