第15話 虎獣人ロッソ

ウォイデアス・歓楽街の大衆居酒屋にて。


「おおきにな!おごってもろうて!女抱いて、肉食って、酒飲んで!最高の一日や!」


俺より二回り以上大きい虎獣人のロッソ・カーマインは、ボロの上着を羽織り、胸元をはだけたまま、テーブルいっぱいの肉をかっ食らい、葡萄酒で流し込んでいる。


「良かったですあの、」

「お姉ちゃん!今晩俺の宿来えへん?ベッドの上やと、狼になるで?虎やのに!ンナハハハハハ!」

「実はロッソさんをさが、」

「おっぱいおっきいなおばはん!揉んでええ?!」

「仲間になってほ、」

「おい女!お前娼婦やろ?店どこや!今度買ったるわ!ンナハハ」


最悪だ。


この虎獣人、ネコ科なだけあって、スーパー自分本位。

自分の興味があることにしか反応しない。性欲まみれの陽キャ。前の世界の俺的に、だいぶ苦手なタイプの人種 (人じゃないけど)。

俺とマッチング成約率120%な理由がさっぱりわからない。


「てか自分、名前は?」

「え?」


急に話を振られてびっくりする。


「ジュンです」

「なんで俺の名前知ってるん?」

「あ、えっと」


スキルのことを話すか一瞬悩んだが、すぐに別の質問が飛んできた。


「おごってくれてるからには、なんや、『牙』への仕事依頼か?」


『牙』。獣人のみで構成されている傭兵ギルド。このロッソも登録している。


「んー、仕事といえば仕事です」

「ちっこいのに、お金ずいぶん持っとんねんな」

「え?」

「腰の巾着。大量の金貨の臭いがプンプンや。うちの地元来たら、ソッコーでカツアゲされるで?」


そのまま食べられてまうかもな?ンナハハとロッソは爆笑しながら酒を飲む。


さすが獣人。

嗅覚が人間とは比べ物にならないくらい発達しているようだ。


「臭いで言えばぁ、自分、あれ?名前なんやったっけ?」

「ジュンです」

「おお、ジュン。お前、キャンデーラ住んどったやろ?」

「え?」

「キャンデーラは、キャンドルの火がよぉ灯ってる国や。そこの人間は、キャンドルの煙の臭いがこびりついとる。図星やろ」

「はい。故郷はキャンデーラです」

「……キャンデーラのジュン」


急にロッソが鼻を近づけてくる。


ん??


凄い迫力だ。俺は内心びくびくしながらロッソを見る。


すんすん。


ん????


ロッソの鼻がぴくぴく動き、改めて、俺の顔をまじまじと見つめる虎獣人。


「ジュンちゃんちゃう?」

「え?」

「ジョン王の一人息子、ジュンちゃんやんな!?」

「え?はい、え?知り合いでしたっけ?」


そんなことプロフィールには書いてなかったぞ?


「俺や、トラキチや!」

「え?……ええええええ!!!」


思い出した。自分が5歳のとき、1年くらいうちの屋敷にいた、門番のトラキチさん。


「トラキチさんがロッソ・カーマイン?」

「せやでぇ。ジョン王がな、きっとジュンちゃんが怖がるからぁ言うて、屋敷で働いている間は顔隠し取ったんや」


そういえば、当時のトラキチさんは全身甲冑に身を包んでいて、顔を見たことはなかった。背の高い、陽気な関西弁の若者だとばかり思っていたが。まさか虎獣人だったとは。

辻褄があった。ロッソのプロフィールに書いてあった≪王族に召し抱えられて、士族階級になったんや≫という一文の王族とは、父さんのことだったんだ。


「ジュンちゃん大きゅうなったなぁ、いまいくつ?」

「こないだ12歳になったばかりです」

「12歳!ほあ~!立派なもんや!そしたら、スキルも発現したんやろ?どんなん?ジョン王みたいな、炎魔法系のスキルなん?」

「いえ、『マッチングアプリ』というスキルです」


頭の上に?マークの浮いているロッソに、俺はウィズユーの説明をした。

目を輝かせる虎獣人の求めに応じて、俺は居酒屋内の女たちのプロフィールを紹介する。


「えげつな……」


「マッチングアプリ」によって明らかになった女たちのプロフィールを知り、ロッソは愕然としている。


「神様から与えられた、最高のスキルやん!女抱きまくりやん!たまらんなあ!」

「俺はそんなことしないよ」

「え?ホモなん?」

「違う。女が嫌いなだけだよ」

「ンナハハ!俺とは大違いやな!俺は女大好きや!!!!」

「……嘘はやめなよ」


俺の言葉に、豪快に笑う虎の表情が変わった。


「……ハハハ、嘘やないで。女好きよ、俺は」

「俺の『マッチングアプリ』は、相手の深層心理も、過去も、全部わかるんだよ、ロッソ・カーマイン」


++++++++++++++++++++++++++++++++++


ロッソ・カーマイン(22) 獣人の国ドートン出身

職業:傭兵

186cm

自己紹介文

まいど!ドートン出身の元奴隷獣人やでー!虎の獣人で、生まれたときから奴隷やってん、最初は人間が憎うて仕方なかったわー。せやけど、成長して戦争に駆り出されて、手柄を上げたのがきっかけで、王族に召し抱えられて、士族階級になったんや。ま、素行不良で、1年くらいで解雇されたんやけど(笑)

それからは、獣人のみで結成された傭兵ギルド「牙」に登録して全国各地、傭兵のお仕事させてもろてます。

たまったお金で女を買う、これが俺の日課や。

これは俺なりの復讐や。

俺は奴隷として、人間の女に飼われとった。風俗店経営の大金持ちババアや。物心ついた頃から、変態趣味のデブ女に首輪をつけられて、性処理道具にされて。恐怖を植え付けられた俺は、やり返すことが出来ず、大衆の面前で女に犯されたこともあったな。

風俗女どもに、俺は、俺が受けた以上の絶望を味わわせたる。気が済むまでは、それが俺の生きる理由やな。ンナハハ

性格は基本おちゃらけやな、おもろければええやんええやん!

好きなものは肉と酒とジュンちゃん、嫌いなものは女とワタヴェ商会。

固有スキル「完全鋼鉄武装(フルメタルジャケット)」(ランク:A)

(使用後反動があるが、一定時間肉体を鉄鋼化させ、肉体の強度を上昇させる)

剣術C 魔法E 知力C 体力S


現状マッチング成立確率120%(ロッソさんは、あなたと話せば、子猫のように懐きます。きっと最高の相性の一人となるでしょう。)

+++++++++++++++++++++++++++++++++


俺は、ロッソのプロフィールの冒頭から奴隷の過去の部分までを、声に出して読み上げた。


「今話したのが、『マッチングアプリ』で見れる、君の情報の全てだよ、ロッソ」

「改めてえげつな……」

「ロッソの過去には同情する。だけど、風俗で働いている女たちは、君の過去とは無関係だ。嫌いな女を抱いて、関係ない人を傷つけるように犯して、誰も幸せにならない。風俗通いはもう辞めな」

「ええよ」

「え?」


拍子抜けだ。

反論してきたり、ガキが人の生き方に口出しすんなって、キレてくるかと思った。


「いいの?」

「ええよ、俺、ジュンちゃん好きやし」


え?


ジュンちゃん好きやし、と言ったロッソの顔が、酒に酔ってるせいか、随分とろんととろけている。じっと俺を見つめてきてる。


え?


え?


え?


こいつ好きなものに、ジュンちゃんって書いてあったな。


え?マジで好きなの?恋愛対象的意味の好きなの?



え?


急に、俺の頭に、陰茎棘(いんけいきょく)がよぎった。



イヤアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!

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