第11話 暗い道を征く者たち

クロトによる制裁は既に始まっていた。


料理長トバーンの指についている爪を、10分に一枚ずつ剥ぎ、3時間と20分で全て剥いだ。


そしてその後、1分に一回、死ぬまで終わらない、究極の選択を強いた。


というのも、右手人差し指と左薬指、斬り落としてほしいのはどっち?と尋ね、答えない、あるいは嫌がったら≪両方斬り落とす≫を繰り返すというものだ。


トバーンの身体は、2時間余りで、指、手首、腕、足首、太腿、とじわじわ切り刻んでいき、最終的には、四肢のない、血まみれダルマになっていた。


「あぁぁああ、もう、もう、勘弁、してくれ、俺は、」


トバーンが泣き濡れた顔で懇願した。殺し屋と呼ばれるクロトは、無表情だ。


「俺は、なんだ?」

「ここまでされるようなことはしてない!ただ王妃と寝ただけだ!」

「……やはりそうか。俺の妻を寝取ったヒーガ・シディも同じようなことを言っていた。クズの考えは皆一緒なんだな」

「へぇ?」


クロトは、トバーンの男根と睾丸を、振り上げた金槌でぺしゃんこに潰した。悲痛の叫びをあげる料理長。


ぎゃああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!


「お前のしでかした不倫は、精神の殺人だ。家族、一族の尊厳を踏みにじる大罪をお前は犯した。そしてお前らは反省しない。反省できる良心がある者は、元々しないからな」


だから、と言ってクロトは小刀を抜いた。固有スキルのおかげで、この小刀はSランクの切れ味を有している。


「俺にできることと言ったら、尊厳を踏みにじられた魂の救済だ」


ブスッ。


トバーンの右目を潰した。何度目ともわからない絶叫にうんざりし、クロトはトバーンの首を掻っ切った。


料理長トバーンが死んだ。


これで仕事は終わりだ。


ジュン王子の計画は見事遂行された。王妃は毒で死に、王妃毒殺を企てたとされるトバーンは脱獄するも、善良な市民たちによって、リンチにあって死亡(ということにする)。


「王妃を死に追いやった毒は、トバーンが裏社会の顔役、ギフト・ヴェネーノに頼んで手に入れていた為、その真相にたどり着いた人間が、義憤にかられ、ギフトを成敗した」


クロトのつぶやきに、同席していた毒人間のギフトは苦笑した。


「変な冗談はやめてくださいよ。私のおかげで王子の悲願は遂げられたのですから」

「毒を盛られた演技は見事だったな」


クロトが皮肉にみちた微笑を浮かべる。


「あれは演技じゃない!あんたが、実際に食べろと言ったんでしょうが!」


ギフトが激昂する。自分のスキル『毒身男性』で自分の体内から調合した毒のため、事前に解毒剤も準備できていたが、実際に毒を食わされたのだ。目の前の大男に脅迫されて。


「そうだったか。ま、おかげで王妃に毒入りケーキを食わせることができた」

「手の込んだことをする方々ですよ、王子も貴方も。殺したいならサッサと殺れば良かったのに」

「ただ殺人をしたいわけじゃない。これは、傷つけられた人間にしかわからないだろう」


ギフトは呆れかえった。自分に言わせれば、どんな御託を並べようが、殺しは殺しだ。たかが不倫でここまで。


まぁ、おかげで王族を強請るゆするキッカケが手に入った。億万長者は近いですね。


ブスッ。


「え?」


ギフトの腹には、トバーンを切り刻んでもなお、刃こぼれ一つないSランクの小刀が生えている。いまの一刺しで内臓がイカれた。ドクドク血があふれ出る。


「おま、」

「王子はお前をほっておけと言っていたんだ。だが、あの人は人を信じすぎる」

「何、てめ、いっ」


クロトは、腰に帯刀していたサーベルを抜くと、早業でギフトの胴体を真一文字に引き裂いた。


「こういうクズは、傲慢にもつけあがり、時に善良な市民を強請る」

「クロ、てめ、ゆるさね、」


スパーーン。


一瞬にしてギフトの首は刎ねられた。


「俺も許さねえよ。お前ら人間のクズは、一人残らず」


冷たい目で、死体を一瞥し、殺し屋は夜の闇に溶けていった。


***********************************


一週間後。


「はぁ」


俺ことジュン・キャンデーラは、屋敷の自室でくつろいでいた。


毒殺された王妃(母)の国葬が終わり、屋敷内は勿論のこと、領民たちは喪に服していた。

父・ジョン王も不貞の妻の裏切りからの変死で精神的に参ってしまい、病床に伏している。


だが。


一日も早く、父さんには立ち直ってもらわないといけない。


父さんが寝取られた事実は俺が全て消し去った。


だから、ジョン・キャンデーラは依然変わりなく、この国の偉大な王でありつづけてもらわないと。


「そうだウィズ」


俺の言葉に反応して、ハート形スライムが顔をひょこっと出した。


――どうしましたかジュンさん。理想の女性探しですか。


「違うわ!婚約者フィアンセがいるって言ったろ!?」


――マリヤさんですね。子犬のような愛嬌のある御方ですよね。


「え、そう思うやっぱり?」


俺は頬をかいた。マリヤの笑顔を思い出すと、すさんだ心も元気になる。彼女は国葬の参列が済んだのもあり、故郷へ帰っていた。


また早く会いたいな。


「て、マリヤのことはいいんだ。奴隷商人を探す」


――ああ、例のですね。


そう。奴隷の売買を固く禁じているキャンデーラ領内で、平然と商売をするクズ。


父さんが病床のいま、領内の平和を守るのは、嫡男である俺の役目だ。


「ウィズユー。検索ワード 奴隷商人」


――かしこまりました。奴隷商人を検索します。


ウィズが眼の前に奴隷商人のヴィジョンを複数映し出す。

しかし、キャンデーラ近辺を拠点とする奴隷商人は出てこない。


「これってどういうこと?」


――奴隷商人自身が、自分のことを奴隷商人と認識していないんでしょう。


「すげえクズじゃんそいつ!そしたら、検索ワード 奴隷売買で調べて」


――かしこまりました。奴隷売買を検討します。


再度ウィズが調べた結果、スキル『マッチングアプリ』から選出された、奴隷として売られている人間と、売っている人間、買っている人間が100人以上出てきた。


「……胸糞悪いな」


検索結果のなかには、うちのメイドのウェハーラ・レビ、スキノスの居酒屋店主イットーもいた。奴隷を買っているクズだ。


え。


検索結果の中にもう一人、顔見知りの人間が映っていたのだ。

その人物は、たしか愛称が、あれ、なんだったか。でも、俺のよく知る人物だ。ついこないだあったばかり。


「……ウィズ、『マッチングアプリ』が間違えることってあったりする?」


――『マッチングアプリ』は、この世界に生きる全ての人間の詳細な個人情報、性癖、過去、マッチングの可能性といった、あらゆる事実を映し出します。間違いは、絶対にございません。


「そう、だよな。奴隷売買専門・ワタヴェ商会の次期会長」



婚約者であるマリヤ・グチモームスの後ろにいつも従っている若い執事の顔が思い浮かぶ。


「アンジェロ・ジャッシュ。あいつが奴隷商人か」

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