第9話 最後の晩餐
~ 聖母は神の子に祝福の接吻をし、天に愛されし御子は勇者になる。
世界を救う偉大な英雄は、母の愛と父の勇気から生まれた ~
聖歌隊が華やかにゴスペルを歌い上げる。
晩餐会場じゅうの来賓が拍手をして、いよいよ、その時がきた。
オーケストラの壮大な演奏と共に、2m余りある巨大なケーキが、料理長・トバーンによって運ばれてきた。
そして母リョーコがトバーンに微笑みかけるのを、俺と父ジョン王は横目で確かに見た。
可哀相な父さん。
彼はただ、真面目に国を治め、家族を愛してきただけなのに。
「親愛なる国王陛下、そして、そのご子息であらせられる、神の子、ジュン・キャンデーラ様。今宵は誠におめでとうございます。キャンデーラ家の御厨房を預かるものとして、私のこれまで積み重ねてきた経験と、技術と、誇りと情熱、全てを注ぎ込み、御生誕を祝したケーキをご用意させていただきました!!!」
堂々とした口上を述べるトバーンに向けて、来賓たちは万雷の拍手を送る。
この料理上手豚ダルマが。
俺は笑顔を浮かべながら、聞こえるか聞こえないかくらいの声量で、ウィズ、と名前を呼んだ。
――はい。ジュンさん。
「トバーン・シュサーク」
俺は豚ダルマのプロフィールを呼び出した。
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トバーン・シュサーク(40) 舌の国セダイン出身
職業:料理長
168cm
自己紹介文
どもども!不倫現在進行形ヤリチン既婚者料理長です!おいらの自慢は王妃のリョーコちゃんとチョメチョメな関係にあることでぇーす!
最初はリョーコちゃんからだったなぁ。5年前の夏かな?料理が美味しかったと言われて、呼び出されて、気づいたら最後まで。
最初は妻も子供もいるし抵抗はあったけど、アレの相性が良すぎて。(しょうがないよね笑)
よくもバレずにここまで来たよなぁおいらたち。あと3年でリョーコちゃんとキャンデーラを出て田舎で暮らすんだ!
おいらのこの料理の腕があれば、どこでも店は出せるしね。今日のケーキも最高級の出来!王様には本当に悪いけど、美味いケーキ作ったから許してんちょまげ!(そんなん言ったら殺されるw
好きなものはリョーコちゃんと料理、嫌いなものは馬鹿舌な奴等。
固有スキル「神様の料理本」(ランク:S)
(作りたい料理を思いつけば、自動でレシピがひらめく)
剣術E 魔法E 知力C 体力B
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俺は深いため息をついた。肉体関係に誘ったのが母からだったとは。
5年前。俺という息子がいて、国王である旦那がいて。
母はこの豚ダルマを選んだのか。
凍り付いた外向けの笑顔を浮かべたまま、俺は母の名を口にした。
キャンデーラ家を裏切った
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リョーコ・キャンデーラ(40) 竜の国トーサ出身
職業:王妃
161cm(Cカップ)
自己紹介文
はじめまして!毎日悶々むずむずしてます!歩くほしがりビッチ王妃です!
元々は平凡な貴族の家の出だったんだけど、旦那と大恋愛の末、結婚。気づけば王妃として生きていくことになっちゃって、人生は一変。
身体と心が、息子を産んじゃったせいで、全然満たされなくなっちゃった!(ぴえん)
キャンデーラ家の、嫡男が生まれたら子作りしないという悪習を律儀に守る夫が私を一切抱かないから、私の欲しがり癖が止まらなくなっちゃった!
そこで5年前に誘惑したのが、年の近い、冴えないおっさんだった料理長のトバーン。
今では私の最愛のパートナー(まぢでおっきすぎるの笑)!
あと3年でトバーンとキャンデーラを出て田舎で暮らすんだ!それまではこの屋敷でのクソ退屈な生活を我慢するんだ!がんばれ私!(ふぁいとぉ!)
好きなものはトバーンとのチョメ、嫌いなものはキャンデーラ家。
固有スキル「処方箋」(ランク:C)
(薬の調合をつかさどる能力)
剣術E 魔法B 知力B 体力A
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初めて見た、母親の本性。
女というのはここまで醜くなれるのか。子供がいて、旦那がいて、それでも自分のことばかりなのか。性欲に身を任せて、家族を裏切れるのか。
1ミリもなかった家族の情は、ゼロからマイナスになった。
ただ。一つだけ感謝することがあるとするならば。
ありがとう。おかげで何の後悔もなく、安心して殺せる。
「ジュン」
父さんが俺を呼んだ。
巨大なケーキが切り分けられて、俺の前に差し出されていたのだ。
母が笑顔で、トバーンに声をかける。
「流石ね料理長。トバーンでしたっけ?本当に貴方が御一人でこの誕生日ケーキを?」
「さようでございます。私一人で、調理いたしました」
「私の愛するジュンのために、よく頑張ってくれました。褒めてつかわす。あとで褒美をとらせます」
「有り難き幸せ」
母と不倫相手の茶番に付き合わされる俺と父さんの気持ちを少しは考えろ。
さてさて。終わったか?
じゃあ。
始めるぞ?
「ねえ!これ変なニオイがする!」
俺のひと声で、晩餐会場に静寂が生まれる。
「なんだと?」
父さんがいぶかしむ。そして母の顔がひきつった。
「ジュン!!!!料理長さんになんて失礼なことを!!!せっかく貴方のためにお作りになられたのよ!!!!!」
「だって変なニオイがするんですよ!料理長さん、これ、大丈夫ですか?」
俺はトバーンに言う。嫌な汗をかいた料理長・トバーンが、コック帽を外して弁明する。
「もちろんでございます!!ケーキ生地も、最高級のミルクをもとに作ったホワイトクリームも、載っているイチゴも、すべて私が、この人生を懸けて創り上げた作品に他なりません!どうかお食べください!」
「食べろ、というんですね。うーん、父上。食べなければなりませんか?」
俺が父に伺いを立てると、ジョン王は渋い顔をして唸る。
「うむ。ジュンの言うことも気になる。誰かに毒見はさせたのか?」
トバーンは、いえ、と否定する。
「この作品は、最初にジュン様に食べていただきたかったので」
「料理長は悪くありませんわ。さ、ジュン。食べなさい。貴方が食べなければ、他の皆様もケーキをいただけないではありませんか」
晩餐会場じゅうに嫌な雰囲気が漂う中、来賓の中で一人手を挙げたものがいた。
「何だ?」
父が尋ねると、手を挙げた、貴族らしき丸眼鏡の男が飄々と答えた。
「陛下。良ければ私が毒見をいたしましょうか?」
「ふむ。貴公は誰だ?」
「彼は、私の友達のお兄さんで、ポワゾンさんです。私が招待しました」
「そうか。ではポワゾン、頼む」
ポワゾンが、俺たちが座る玉座まで進み出て、ケーキの載った皿を受け取った。
「それでは、毒見させていただきます」
ポワゾンがケーキをフォークで一口大にし、ぱくっと口に入れた。
もぐもぐもぐ。
会場じゅうが丸眼鏡の若い貴族のことを見守る。
「うん!とても美味いですよ!最高です!」
ポワゾンの一言で、溜飲が下がった来賓たちは笑いだした。うまいんかーい。
「良かったです、さ、坊ちゃま、お食べください!」
「ジュン、いただきなさい」
二人の言葉を聞いて、俺はギフトからケーキの皿を受け取り、フォークを持った。
「では。いただきます」
俺が、イチゴにフォークをぶっ刺し口に入れた。
その時。
がああああああああああぐああああああああはぁ!!!!!!!!!
!?
晩餐会場にいる全ての人間が、一瞬何が起きたのか、今の叫び声が誰のものなのか、わからなかった。
「ぐは、ぐっ、ああ!」
もがき苦しみ、叫んでいるのは、毒見をしたギフトだった。
「やっぱり毒?」
俺のひと言に、会場じゅうの人々が悲鳴をあげた。
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