第7話 まぢで赤ちゃんができる5秒前
「二人を取り押さえて情報を引き出したものには、今夜高級娼婦をあてがいましょう!」
反社会的勢力『ヴェネーノ・ファミリー』のボス、ギフト・ヴェネーノが高らかに宣言すると、欲深い手下どもが、動物園の猿軍団のごとく、歓声をあげた。
性欲にまみれているのは男も女も一緒か。だが、男は嘘偽りなく顔に性欲と書いてあるからまだマシだ。
女は違う。自分は貞淑であるかのように装い、淑女聖女の仮面の下に、淫乱で醜悪な雌豚の本性を隠している。
信じる人の心を裏切り、そこに罪悪感も覚えず欲に走る。その残忍な
「王子。俺から離れないでください」
「お願いします」
殺し屋クロト・ノワールが上半身を覆う黒装束を脱ぎ払う。装束の下には、ざっと100を越える、特注の大量収納ポケット付き軍用ベストを着こんでいた。クロトいわく、ポケットには、ナイフ、暗器、鉛玉を仕込んでいると言う。
「今夜はおっぱい祭りだー!!!!!」
よだれを垂らして、クロトに劣らぬスキンヘッドの大男が、青龍刀を振るって襲い掛かってきた。
ビュンッ!!
クロトが胸ポケットから錆びついたナイフを、攻撃を避ける動作の流れの中、投げつける。
「ナンジャコリャアアアアア!!!!」
たかがナイフがかすっただけにも関わらず、スキンヘッドの丸太のような右腕が、あっという間にちぎれた。
「「「「「「「「!!???」」」」」」」」」
俺も含めて、一同ちぎれた腕と、それを投げたクロトのことを凝視した。
「俺のスキル『武侠の右腕』は、持った武器を強制的にSランクの業物に変える。この鉄くず同然のナイフも、俺が持てば、ドラゴンの首も裂く必殺の刃に変わる」
恐れ慄く手下どもに、ギフトが、丸眼鏡をくいくいあわただしくあげて怒声を浴びせる。
「はったりに騙されないように!奴はなんかあの、魔法を込めてある、なんかその、特殊な何かを仕込んでいただけです!」
なんだ特殊な何かって。俺は、やっぱこいつ馬鹿なんだなと断定した。
「なんだ特殊な何かか!」
「特殊なだけなら怖くねえ!」
動揺する手下たちがボスの一喝で冷静さを取り戻した。
もっと馬鹿だこいつら。
「特殊なナイフだろうと、集団で一斉に襲いかかれば負けるはずがありません!袋にしてあげなさい!」
うおおおおお!!!!!!
20余りの反社が俺とクロトに向かって同時に襲い掛かってくる。
「すぐに合図します!」
「はい」
クロトのひと声で俺が頭をかばってしゃがみこむと、一流の殺し屋は、太腿辺りに仕込んでいた武器を取り出した。
カチャカチャカチャ!!
一瞬で組み立てられたのは、畳んで装備していた長物の棒だ。先ほどとは反対の胸ポケットに入れていた刃先を取り付けると、即席の鎗へと変わった。
「伏せて!」
俺はすぐさま頭をかばってしゃがみこむ。
「修羅国鎗術・
無駄のない動きでクロトが上半身をひねらせ、自分を軸に、槍を大振りでぶん回した。運悪く刃先が触れたものの胴体は、真っ二つに裂け、棒の部分が直撃した者の肋骨が無残に粉々に砕ける音が鳴り響いた。
反社は一瞬で壊滅した。
クロトすんごっ!!!!!
「クロトすんごっ!!!!!」
思ったことがそのまま口に出た。
「ありがとうございます」
クロトが謙虚に微笑んだ。
「ボス!!なんかあったんですかい!?」
地上から手下たちがぞろぞろ降りてくる。8、9、10人か。
「おめえら、早く撃て!ガキとデカいのぶっ殺しちまえ!」
手下を殲滅されたギフトは、口汚く指示した。後から来た10人が一斉に懐から銃を取り出しぶっ放した。
死ぬ!!!!
俺がそう思った刹那、クロトは長方形のテーブルを持ち上げた。
ダダダダダダダダダダダダダダダ!!!!!
乱発される銃弾は、本来ならテーブルをハチの巣にし、俺達の身体にめり込んでいたかもしれない。
だが。
「テーブルも俺が持てば、オリハルコンの硬度を持つ盾になる」
クロトはそう勝ち誇ると、全身に仕込んだ武器をもって、わずか数十秒で、10人の手下たちを確実に制圧していった。
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「商談はなしです」
俺が縄で一人ふん縛られているギフトに向かって笑顔で告げる。
「……どういうことでしょうか?」
抵抗して、鼻を折られ、顔面に青あざを作った反社のボスは、また元の敬語に戻って、おそるおそる伺いを立てた。
「今からお願いすることは、命令です。断れば、貴方をクロトさんに、最もむごいやり方で殺してもらいます」
「ひぃ!!!!」
クロトがナイフをギフトの股間手前に突き刺した。
じょぉ~。
何かが漏れ出る音がした。
「か、はひ、かし、かしこまりました!ひ、い、ひ、ひのちだけは!」
「ハハッ、かわいそうだから、まず、パンツとズボンを買ってやるよ」
クロトは笑顔で伝えると、ギフトの肩を優しく叩いた。
「今夜の作戦に協力してもらいます」
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キャンデーラ家屋敷、ワイン貯蔵庫にて。
キャンデーラの王、ジョン・キャンデーラの正妻であるリョーコ・キャンデーラは、一糸まとわぬ妖艶な裸体を、料理長のトバーンに包み隠さず見せていた。すでにトバーンと二回戦を終えたリョーコの手元には一枚の手紙があった。
「手紙かい?」
ダルマのようなまんまるとしたトバーンは、口元の髭面をさすりながら、細い目を更に細めて優しくささやいた。
「うん。聞いてほしいの」
「ありがとう」
リョーコは手紙にしたためてきたのだ。
トバーンに出会えて、自分の世界が色鮮やかになったということ。
本当はいつもそばにいて、24時間抱き合っていたいということ。
たとえそれができなくても、常にトバーンを感じているということ。
トバーンがこの世界にいるというだけで、リョーコ・エヒロス(自分をキャンデーラの妻と思ったことは一度もない)という自分の存在が満たされ、方位磁石の針がぴったりと一つの方向を指すように、心がトバーンに向かっているのだということを。
「読むね。私に出会ってくれて、いつも逢ってくれて、合わさってくれて、くっついてくれて、中に入ってくれて、いっぱい泣かせてくれて、きもちくしてくれて、いつだってどんなときだって、貴方らしく居てくれて、対面してくれて、ほんとに本当に、ほんとうに、、、有難う。
心からの有難う。貴方の目を見ていると、まぢで、赤ちゃんが出来る、5秒前です」
リョーコは、汗をかいたせいかはわからないが、身体の一部分を濡らしながら、精一杯思いのたけを伝えた。
「なんだよそれ(笑)」
「え~本気で書いたんだよわたしぃ~」
「冗談冗談(笑)リョーコにそんなセンスがあったなんて。いい歌い手になれるよ」
「とってもとってもとってもとってもとってもとっても大好きだよトバーン」
「僕もさ。君といたら、僕は誰よりもハレンチな料理が作れそうだ」
「え~やばーい(笑)」
ジュンも今日で12歳。スキルも発現して、あと3年で、一人前の成人になる。つまり、母親としての私の役目も終わりだ。
3年後、私はキャンデーラを離れ、トバーンと田舎で暮らすんだ。
だから。
そのためにも。
今夜の
「がんばってくるね、トバーン」
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