第6話 妻にもう一度会えたなら

「王妃が不倫、まさかそんな」


殺し屋クロト・ノワールに、昨夜の出来事を包み隠さず話した。

クロトは、俺の父であるジョン王に同情したのか、自分の過去と重なったのか、その表情は深い暗闇に沈んでいる。目の前の彼が生みだした静寂は、明らかに俺の母への憤りに満ちていた。


「俺は母を殺したい。だから、クロトさんの力を借りたいんです」

「……気持ちはわかる。俺にも似たような過去があるから」

「そうだったんですか?」


俺は初めて聞いたというリアクションを取り、クロトの返事を待つ。


「だが、……仮にも自分の母親だ。子供に母親は必要だと、俺は思いますよ。たとえどんな親であっても」


クロトは優しい男だ、と改めて感じた。

幼い俺(精神年齢で言えばアラサーなんだけどね)の今後を気にかけてくれている。もしかしたらクロト自身、自分の子供から母親を奪ってしまったことに後悔の念を抱いているのかもしれない。


だが。


「母親じゃないですよ」

「え?」

「本当の母親なら、子供がいるのに不倫はしません。自分の旦那と、子供をしっかり愛していたら、家族を裏切るような真似は、絶対にしない。俺はそう思います」

「……」

「あれは、性欲に溺れた殺人鬼です」

「殺人鬼?」


クロトが怪訝な顔を浮かべた。


「はい。不貞の妻は、最愛の夫の心を殺し、尊厳を踏みにじる。家名を穢し、一族が築いてきた名誉を惨殺する、最悪の殺人鬼です」

「うん」


クロトは深くうなずいた。


「だから俺には、母を殺す資格があると信じています」


これは一切ウソのない、俺の本心だ。

前世で俺を裏切り続けてきた女たち。何よりも、家族や友人、神の前で誓ったにもかかわらず、俺を裏切り、課長の肉棒を咥えていた、最低最悪淫乱クソビッチのメスブタ妻(アスカ)にもう一度会えたなら、俺はこの手で殺したいと思っている。

顔をナイフで切り刻み、耳と鼻をそぎ、顔の骨が折れるまで殴り、指を一本一本斬り落としてやりたい。


え?流石にドン引きするって?




はぁ?




それが普通だろ?俺は身も心も殺されたんだから。


「ジュン王子」


クロトが俺の名を呼び、俺は我に返った。


「あ!はい」

「報酬は要りません」

「……え?え、それじゃあ!」

「はい。王と貴方の心の痛み、俺にはよくわかる。貴方の言葉は、一つも間違っていない。お母さんを殺しましょう」

「あ、いえ、クロトさん誤解です」

「え?」

「殺すのは俺です。クロトさんには、用心棒をお願いしたいんです!」

「用心棒?」


**********************************


「どなた様でしょうか?ここは子連れで来るところではありませんよ」


蛇柄の高級ジャケットを羽織り、長髪を束ねた丸眼鏡の男が、温厚そうな笑顔で、俺とクロトを出迎えた。

周りには、知力E、体力Aの脳みそ筋肉な手下たちが20人ほど控えている。


ここは、スキノスのとある飲食店の地下である。


そして目の前のこいつらは、いわゆる反社だ。


うちの領内に裏社会の人間たちがいるなんて、俺も「マッチングアプリ」を使うまでは知らなかった。


++++++++++++++++++++++++++++++++++++

ギフト・ヴェネーノ(26) 麻薬の国ギロッフォン出身

職業:ボス

173cm

自己紹介文

やっほー!おいらはドラッグ大好きシャブ中だよぉ~。女は買う専!(迫真)

貧民の生まれだけど、地元の悪そーな奴等(だいたい友達)を集めて、毎日犯罪がんばりました!日頃の努力の成果かな?10年かけて、構成員150人の『ヴェネーノ・ファミリー』として裏社会で知られるようになりました!

主なシノギは暗殺、恐喝、詐欺、密売。薬物の種類は麻薬、毒薬、媚薬、何でもござれ。薬剤師雇ってるから普通に風邪を治す薬もあります(爆)

性格はみんなから軽薄って言われんだよねぇ。そんなつもりないんだけどなぁ?あ、でも、約束は絶対破るかな(笑)商談は基本ふっかけるのと、身分高い奴だったら後日ゆすって金をせしめるゼィ!イェイ

基本はスキノスのギフト飯店の地下にいまーす。飯店の店員(俺の部下)に合言葉の「チャーハン餃子定食に唐揚げ4つ、あと水早く持ってこい」を言えば俺に会えるよん♪

好きなものはドラッグと金、嫌いなものは貧乏人と正論っしょ。

固有スキル「毒身男性ポイズン」(ランク:B)

(指先からあらゆる毒を生成する。)

剣術C 魔法A 知力D 体力C


現状マッチング成立確率15%(ギフトさんはあなたを相手にしないでしょう。ただし、王子と分かればあなたを誘拐、脅迫などをしかけてくるかも?要注意ですね☆)

+++++++++++++++++++++++++++++


俺は、クロトよりも先にを「マッチングアプリ」で見つけていた。


「ボスと商談がしたくて」


俺が言うと、ギフトが笑った。


「聞きました皆さん?この少年が、私と商談ですって」


ボスのひと声で、20人の手下たちがゲラゲラ笑った。すごい頭の悪い笑い方。真似したくても出来ないな。


「俺は本気です」

「ふふふふふ。一緒にいるあなた。彼を公園に連れて行ってあげてください」


馬鹿にした言い方が癪にさわったのか、クロトはぶっきらぼうに答えた。


「裏社会のクズが、一丁前に客を選ぶな」

「……ふふふふ。かわいそうに。貴方は品性を落としてきたようだ。一緒に探してあげましょうか?」

「商談をしにきた。耳が悪いなら病院に連れて行ってやる」

「ふぅ~。いいでしょう。相手が誰であれ、お客さんなら大歓迎です。前金で金貨300枚いただきましょう」


ギフトの言葉に、クロトがキレた。


「ふっかけやがって。ふざけてるんだよな?」

「ふざけていないですよ。どなたが相手でも、同様の前金をいただいております」

「依頼内容も聞かずにか?」

「ええ」


クロトが俺を見る。俺は黙ってうなずいた。予想通りだ。


「帰りましょう。話にならない」


そう吐き捨ててクロトが俺と出ていこうとすると、手下たちが地上への階段前に立ちふさがった。


「帰らせるわけないでしょう」


ギフトが笑った。


「貴方達、どちらでウチのことをお知りになったのですか?」

「企業秘密です」


俺は満面の笑みで答えたが、ギフトは、キギョウがよくわからなかったようで、俺をスルーして言葉をつづけた。


「この仕事は信用で成り立っています。情報を洩らした方について教えて頂きたい。そうすれば、喉を潰して、両手首を切り取るだけで勘弁してあげます」


予想を超えてこない。見た目やしゃべり方は知的だが、流石知力Dの反社。シンプルな頭をしているな。


「お断りします」

「ふふふふふ、わかりました。では、始めましょう」

「商談ですか?」


俺が言うと、チッチッチッとギフトが指を振った。


「勿論、拷問です」

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