第5話 殺し屋クロト

ガヤガヤガヤガヤ。


キャンデーラ領内の繁華街「スキノス」

他国の行商が多く訪れ、高価な掘り出し物にも出会える場所。薬草、魔法アイテム、武器・防具専門店なども多く、宿泊施設も充実。飲食店も多く立ち並ぶ。


領主の息子が誕生日に出歩いてたとなってはすぐ噂になる。

俺は、帽子を深くかぶり、丸眼鏡とみすぼらしい庶民の服で変装をしていた。


――さてジュンさん。探しているのは誰ですか。


「クロト・ノワール」


ウィズユーと唱えてビジョンを表示する。


+++++++++++++++++++++++++++++

クロト・ノワール(30) 修羅の国ハクタ出身

職業:殺し屋

178cm

自己紹介文

こんにちはー!修羅の国出身のNTR(ネトラレ)男です。不倫をした妻、不倫相手のヒーガ・シディ第三王子、シディの王族たちを殺したのがきっかけで、祖国のお尋ね者になり、殺し屋稼業をはじめました。てへっ!

この5年で300件ほどの依頼をこなし、殺した数は1000人以上。仕事の成功率は100%です。

息子は妻の実家で保護されてる。いつか会いたいなぁ。

性格は自分で言うのもなんだけど、義理人情に厚いかなぁ。約束は必ず守るし、裏切りは絶対許さないよ(笑)

金には困ってないので、興味のある仕事だけ引き受けてるよっ。

酒が好きで、最近はスキノスのバフって飲み屋に入り浸ってまーす。ビールと葡萄酒大好きぃ~。

好きなものは酒、嫌いなものは裏切りと女です。

固有スキル「武侠の右腕」(ランク:A)

(持った武器を強制的にSランクにし、使いこなすことができる。武器は手放すと壊れる。)

剣術S 魔法E 知力B 体力B


現状マッチング成立確率90%(クロトさんはあなたと信頼関係を結ぶことができるでしょう。ぜひ告白してみてください)


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「理想的な人材だ」


――運命の女性を探すスキルで、殺し屋の男性をお探しになるとは。


「文句言うなよ、俺には婚約者がいるって言ったろ?」


――一夜限りの女性も探せるのですよ?


「馬鹿!俺は12歳だ!!」


大声で突っ込んだ俺を、スキノスの人たちはじろじろ見だした。

目立っちゃまずい。

俺は急いで大通りから路地裏へ向かった。

当たり前だが土地勘があるため、そこからいりくんだ道を通って、15分後、大通りの端に位置する、飲み屋・バフに入店した。



が。


「ゴルァ!ここは子供の来るところじゃねえんだよ!帰れ帰れ!!!」


入店して速攻店主が怒鳴り散らしてきて追い出されてしまった。


高圧的な奴だ。領内で仕事させないぞ?


「ウィズ」


――はい。


「今のあいつみたいな、名前を知らない相手の検索は出来ないのかな?」


――オートモード設定にしていただければ、私や、ジュンさんが視認した対象のプロフィールが自動で簡易に表示されます。


「まじで!?更に便利じゃん!」


――四六時中他人のプロフィールが表示されるので、うざったいと思いますよ?


「なるほどね。とりあえずいったんオートモードにしてくれる?」


――かしこまりました。自動表示に設定します。


ハート型スライムのウィズが一瞬黄色に変色し、すぐに戻った・


――完了しました。


「おお!」


通りを行く人たちのプロフィールが頭の上に浮かんでいる。


「名前、年齢、結婚の有無、恋人の有無ねぇ」


――通常時のように詳細が知りたい場合は、「詳細希望」とおっしゃってください。


「了解。それじゃ、もっかいチャレンジだ」


俺は再びバフのブチギレ店主のもとへ向かった。


*****************************


「このクソガキ!また入って来やがって!母親のおっぱいでも飲んでろクソが!」


口の悪い親父だ。“母親”という言葉のせいで、料理長・トバーンにまたがる母親の痴態が頭によぎってしまった。

いやなこと思い出させやがって。


「詳細」


俺の言葉に合わせて、自動で店主のプロフィールのビジョンが表示された。


+++++++++++++++++++++++++++++

イットー・ランジャータ(55) 砂の国サーキウ出身

職業:居酒屋店主

165cm

自己紹介文

こんにちは!幼女大好き変態おやぢです!奴隷商人とコネがあるから、月1で安価の奴隷買ってまーす(笑)妻にはもちろんナイショです(キリッ

身分証明書を提出させて、18歳以上だったら却下します!ロリコンなんで。へへへへ

遊び飽きたらまた売ればいいし、奴隷しか勝たん!

好きなものは幼女、嫌いなものは18歳以上の女とガキ。

固有スキル「酔狂な指揮者ドランク・マエストロ」(ランク:D)

(相手の体内のアルコール濃度を自由に変えられる)

剣術E 魔法B 知力E 体力A


+++++++++++++++++++++++++++++

ブッハ!

俺は思わず吹き出した。いやいや!ロリコン変態親父かーい!!!!

となれば話はカンタンだ。すぐさまロリコン親父を、ウェハーラと同様に脅迫。こころよく店内にいる許可をもらい、俺はオレンジジュース片手に店内を歩き回ることにした。


それにしても、うちの領内で人身売買が横行しているのも問題だ。

今回の件が片付いたら何とかしよう。


「お」


見つけた。ダボダボなズボンを腰履きした、黒装束の大柄な男。あいつが、殺し屋クロト。


****************************


「何か飲みたいものはありますか?」


俺が声をかけると、クロト・ノワールは、意表を突かれて、一瞬驚きの表情を浮かべたが、すぐに笑顔になった。


「坊や。お店の手伝いか?えらいな」


意外にも優しい顔つきをしている。眉毛は太く、大きな二重の目。黒の短髪に、鍛え抜かれた筋肉。見た目はプロフィールで見た通りだが、まったく人を殺すようには見えない。


「いえ、俺も客です」

「……は?」

「おごりますよ。好きな飲み物を頼んでください」

「ハハハハハ、面白い冗談だな」


こんな小さい子におごってもらうわけにはいかないな、と俺の頭を大きな手でわしゃわしゃ撫でたが、俺は、本当ですよ?と言った。


「ま、正しくは俺じゃなくて、店長さんのおごりですけど」

「なんだって?」

「いいですよね?店長?」

「えへへへへへ、そりゃあもちろん、えへへへへへ」


俺に脅されたロリコン店主は、青ざめた汗びっしょりの顔に苦しげな笑みを浮かべて言った。


「本当かイットー?ケチでイヤな奴のあんたが、今日に限ってなんで?」

「坊ちゃまたっての願いだからよぉ、えへへへ、代わりに坊ちゃまの話を聞いてくれクロト」

「坊ちゃま?」

「俺は、ジュン・キャンデーラ。ここの領主の息子です」

「本当かイットー?」

「間違いねえ、ジュン王子だ」

「ふーん。王子様が、俺に何の用ですか?」

「クロトさん。あなたに仕事を頼みたい」


俺の一言で、一瞬にして空気が変わった。穏やかなクロトの顔が、冷徹な殺し屋の表情にすげ変わっている。冷ややかで、哀しい、息の詰まる空気に。


「冗談なら、笑ってあげますよ」

「本気です」

「……俺の仕事を知っているんですよね?」

「だから頼んでいる」


俺の目をじっと見つめて、クロトは飲んだ分の銀貨をテーブルにジャララと出し、席を立とうとした。


「不貞の妻」


俺の言葉を聞いて、クロトから強烈な殺気が溢れ出た。


「……あ゛?」

「不貞行為に溺れる、俺の、を殺したい」


一瞬の沈黙のあと、クロトは何も言わず、椅子に座り直した。


「クロトさん?」

「話を聞こう」

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