第3話 固有スキル「マッチングアプリ」顕現

誕生日の朝。

俺は朝飯を一切食べずに、自分の部屋に引き籠った。

あとで聞いた話では、父・ジョンも同様に一切料理を口にしなかったらしい。

老執事のハリスンが少しでもお食べになった方が、と朝食の皿を持ってきたが、俺は頑として譲らず、しまいには部屋から追い出した。


――悪いハリスン。腹は減ってるけど、それだけは出来ない。


父さんと俺の心を引き裂き、キャンデーラ家の誇りに泥を塗ったゲス野郎の料理なんてうんこ以下だ。料理長・トバーンは絶対に俺が殺す。

もちろん、あの母親メスブタも。


――そのための固有スキルよ、どうか目覚めていてくれ!!!


神にすがる気持ちで、空腹の俺は、キャンデーラ家お抱えの鑑定士をこっそり呼びだし、そろそろ発現しているであろう固有スキルを確認した。

鑑定士は、文字通り、固有スキル「鑑定」の持ち主であり、人々の固有スキルを見たり、アイテムの価値を見極めることができる。


怪しい人間がいないか見定める防犯対策と、高価なアイテムの取引など、屋敷内では重宝されている存在だ。


「わかりました。坊ちゃまの固有スキルは、『マッチングアプリ』です」

「え?」

「『マッチングアプリ』です」

「は?」

「『マッチングアプリ』です」

「本当に言っているの?」

「本当に『マッチングアプリ』です」

「どんな能力なの?」

「私も初めて見たスキル名なので、推測することしか出来ませんが、多分いろいろマッチングするんじゃないですか?」

「テキトーな……」

「おかしいですね。私の「鑑定」は、アイテムの価値や固有スキルのランクが、E~Sと表示されるのですが、この『マッチングアプリ』というスキルは、S-EXと出ています。これも初めてで、ランクでいうとどの辺りなのか、皆目見当つきません」

「は?」


S、E、X?それはもうアレじゃん!!!!!!!!!!アレのことじゃん!!!!!なんなんだよ俺のスキル!!!!!!固有スキル名『マッチングアプリ』で、ランクはSEXって、なんなんだよ!!!!!


俺は泣きたくなって、鑑定士を追い出した。もちろん、このことは誰にも言うなと釘を刺して。

キャンデーラ家の跡取りのスキルが、ランクSEXとかふざけたランクで、しかも「マッチングアプリ」だなんて、恥さらしもいいところだ。あの、クソ不倫女ビッチ母親アバズレの血がそうさせたのか。


悔しさが涙となって溢れてきたので、俺は枕に顔をうずめてバタバタした。

しかし。

一時間して、俺は冷静さを取り戻し、一度スキルの確認をしようと思い立った。

「試しに叫んでみるか。マッチングアプリ!」


すると目の前に、前世に見たことがありそうな、ピンク色のハートマークが中心に描かれた、出会い系アプリのようなビジョンが目の前に浮かんだ。


「マジでマッチングアプリじゃん」


――固有スキル「マッチングアプリ」にお目覚めいただき、ありがとうございます。


「え!?」


目の前に、ハートマークの形をしたスライムみたいなやつが現れた。女性的な声だ。


――私は、「マッチングアプリ」の能力が具象化した存在。With youウィズユー とお呼びください。


「能力が具象化した存在って何?」


――貴方の記憶の中にある情報をお借りし、もっともわかりやすい例えをするならば、ジ〇ジョのス〇ンドです。


「わかりやすい!」


――貴方の呼び方は、「ヒロシ」ですか?「ジュン」ですか?


「それは……ジュンだ」


そう。あのビッチどもに、人としての尊厳を踏みにじられた柴田弘嗣しばたひろしは死んだんだ。


――かしこまりました。それではジュンさん。ウィズユーとおっしゃってください。


「ウィズユー?」


俺が口にした途端、表示されていたアプリのビジョンが消えた。


――ウィズユーとお声がけいただくことで、能力のON/OFFの切り替えができます。


「なるほど」


俺はベッドに腰掛けた。


「ウィズユー、この能力の使い方を教えてくれ」


そう言うと、またハート形スライムのウィズユーが実態を持って現れた。


――かしこまりました。ビジョンを指先でスクロールして探していただくか、気になる相手の名前を唱えていただけば、マッチングに必要な情報を見ることができます。


「まんまマッチングアプリじゃん」


――ええ、まんまです。お試しになりますか?


「んー」


コンコンッ。


「お坊ちゃま、お部屋の清掃のお時間でございます」


扉の外から女の声が聞こえた。おそらく、20代後半のメイド、ウェハーラだろう。


「ウィズユー」


俺は小声でウィズユーに声をかけた。


――何でしょう?


「お前や、このビジョンは他の人に見えるのか?」


――ご安心ください。決して見えません。なので、ビジョンをお開きになって、早速スキルをお試しになってください。


「わかった」


俺はメイドを中に招き入れた。中へ入ってきたのは、やはりメイドの、ウェハーラ・レビだった。

彫りの深い顔立ちで美形、おしとやかな仕草と清楚な立ち振る舞いから、屋敷の男たちにも大人気、仕事も早くて正確なため、ついたあだ名が「スピードのウェハーラ」だったか。

面と向かってでもよかったが、彼女が背を向けて清掃している間に、俺は「ウェハーラ・レビ」と小声で唱えた。


すると、「マッチングアプリ」が彼女のプロフィールを目の前に公開したのだ。


+++++++++++++++++++++++++++++

ウェハーラ・レビ(29) 南国リューキウ出身

職業:メイド

159cm(Dカップ)

自己紹介文

こんにちは!南国出身のヤリ〇ン女です!過去に2回不倫をしていて、基本的に男がいないとダメな性格なんです(しくしく

お給料がいいのでキャンデーラ家のメイドを長年務めています!最近は執事のハリスンさんを狙ってます(笑)

休日は若い奴隷を買っては、ウフフ。最もフィジカルで最もプリミティブで、最もフェティッシュな行為を楽しんでいます。(18禁)


お互い後腐れのない関係が理想かな。年中そういう相手探してまーす!

好きなものは男とお金、嫌いなものはブスかなー。

固有スキル「白骨の恋ホワイティー・ラブ」(ランク:B)

(行為におよんだ相手の若さを吸収する)

剣術E 魔法C 知力D 体力S



+++++++++++++++++++++++++++++


「んなっ」

「お坊ちゃま?」

「ななな、なんじゃこりゃあああああああああああああああああ!!!!!!!!!」

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