第2話 転生先の異世界にビッチはいない!?


皆さま、現世ぶりです。早速ですが俺こと、柴田弘嗣(しばたひろし)は、異世界の王族、キャンデーラ家の嫡男として転生しました。


ジュン=キャンデーラ。


これが僕の名前です。キャンデーラは、始祖が、≪聖なるキャンドル≫を家宝としたことが由来だそうです。なので、領民の人たちは、親しみを込めて、うちの王族の人間を「キャンドルさん」と呼びます。




よろしくお願いします。


異世界転生ものの定番、固有スキル?アビリティー?ユニークスキル?的なのは、12歳の頃に発現するらしく、11歳の俺は、どんな能力に目覚めるのか、今か今かと楽しみにしていました。



ああ、おかげさまで落ち着いたよ。そりゃね、子供だからね。

キャンデーラ家は代々嫡男が生まれたらそれ以降、子供は作らないことが代々の習わしらしく(後継者争いの遺恨を防ぐため)、現世の淫乱ビッチ(うちの姉妹たち)みたいなのが沸いて出てくるようなことはないんだ。

というか、俺の周りは、男女問わずみんな優しい。もしかしたら、異世界にはビッチはいないのかもしれない。

ま、流石にそれはないか(笑)


え?嫡男が死んだら後継者がいないじゃないかって?


それは大丈夫。そういう時は養子縁組をするんだって。すでに3度キャンデーラ家は養子が王になった前例があるんだけど、みんな上手くいっている。キャンデーラの王たちは、人を見る目が代々備わっていたんだろう。


俺にもそんな目が欲しい。


公衆トイレのリサ、3Pヒトミ、お持ち帰りのマリカ、真っ最中目視のシホ、W不倫不貞アバズレ妻のアスカ。


――俺には人を見る目が一ミリたりともなかったから。


キャンデーラ家の嫡男に生まれたことはきっと何かの縁だ。俺は、人を見る目を養い、立派な女性を妻にもらい、キャンデーラ家の血を絶やさないようにしよう。

屋敷の廊下を歩いていると足音が近づいて来る。


「ジュン様!」

「ん?」


振り返ると、マリヤがいた。

マリヤ・グチモームス。俺の婚約者(フィアンセ)である、貴族の娘。11歳の俺と背丈は変わらないくらい小柄だが、気立てもよく、いつも明るい18歳の女の子だ。ブロンド髪のショートカットで、笑うと子犬のようでとても愛嬌がある。


「来てたんだねマリヤ」

「明日はジュン様の誕生日ですから」

「そっか。そうだね」

「一日早いですが、お誕生日おめでとうございます」

「ありがとうマリヤ」


そう、明日が俺の12歳の誕生日。固有スキルが発現する、異世界で最も大切な日だ。


父親であるジョンの固有スキルは「紅蓮剣」という炎の刃を操る能力。母親のリョーコの固有スキルは『処方箋』という、薬の調合をつかさどる能力。俺の授かる能力次第で、人生の方向性も自ずと決まってくる。


王に相応しい能力になりますように。


「マリヤ、長旅で疲れているでしょ?部屋でゆっくり休みな」

「お気遣いいただきありがとうございます。ジュン様はまだ子供なのに、理想の旦那様ですね」

「お世辞はいいよ(笑)」

「本心です」

「失礼します」

「ん?」


気づけばマリヤの後ろに執事が立っていた。マリヤに使える、アンジェロ・ジャッシュだ。


「お嬢様、荷物を置いてまいりました」


20歳の若い執事だが、優秀ゆえに、10年以上マリヤに仕えている青年だ。愛称はアンジー。


「ありがとアンジー。それでは、ジュン様のお言葉に甘えて、部屋で休ませていただきます」

「うん。明日はよろしくね」

「はい!盛大にお祝いさせていただきます!それでは失礼いたします」


マリヤとアンジェロが去っていく。

マリヤは若くて、大人の女性の魅力みたいなのはないが、愛嬌ある笑顔に癒されるし、彼女が笑えば俺も笑顔になれる。現世では出会わなかったタイプの女性。彼女となら楽しい将来が見える。


異世界に転生できて本当に良かった。異世界に、女(ビッチ)はいないんだ!!!!!


****************************************


その日の夜、俺はお腹が減って、食材庫に忍びこもうと、キャンドルに火を灯して廊下を歩いていく。

そして廊下の角を曲がると。


「え?」


食在庫の扉の前で、父親であるジョン・キャンデーラ、この屋敷の主が立っていた。声をかけようとしたが、父の顔がいつもと違うことに気づき、口をおさえた。

その顔は、現世の自分と全く同じ表情をしていたんです。



混乱、怒り、悲しみ、悔しさ、失望、嫌悪、憎しみ、落胆、侮蔑、殺意、絶望。



言い表せないマイナスな感情の数々が、この城の主の顔に張り付いていた。


よく見ると食材庫の扉がうっすら開いており、父・ジョンはそこから中をのぞいていたんです。

俺は、キャンドルの火を消して、忍び足で父の後ろに回った。

普段の父なら絶対に気づくのに、彼の意識は、全て食材庫の中に向けられている。



――何を見ているんだ父さんは?



俺は床に這いつくばり、こっそり父の足元から、中を覗き込む。


そこには、母・リョーコ・キャンデーラ (旧姓:エヒロス)が、料理長のトバーンと、お互い何も着ないで、声を殺し、たくさん汗をかいて、動物のように、激しく求めあって動いていた。


ガラガラガラ。


俺の12歳の誕生日は、俺と父親の心が壊れる音から始まった。

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