男は夢を見ていた。

 夢……いや違う。これは遠い過去の記憶だ。


 記憶のなかで、男は「なんで光なの?」と問われていた。そう問うたのは、果たして誰だったのか……数多あまたいる女のなかの、誰かだったことだけは確かなのだが。

 光。

 そう、光だ。

 男は自分がつくりあげたチンケな詐欺集団に光を冠する名をつけていた。女はその由来を問うていたのだ。

「いやなに……」

 と表情を変えずに男はこたえる。


「僕は根が暗いからね。逆に光かな……なんてね。それで〈株式会社光クラブ〉って名づけたのさ」


 そうだ、思いだしてきた。

 こいつに裏切られて、この世界での人生は終わったんだっけ……。


 そうして男は目を覚ます。定宿のベッドの上だった。窓からはまばゆい光がさし込んでいて、きらきらとしたその光に包まれながら、男はひとつ大きなあくびをした。


 男のような運命を背負った者を、この世界の人びとは〈まれびと〉と呼んでいる。彼のような〈異界〉から来た住人を、ウルガの人びとは畏怖もこめてそのように呼んでいるのだ。

 異界――。

 実際に男は、いくつもの異なる世界を渡り歩いてきた。あるときは追われるように。あるときは逃れるように。またあるときは、自死を選んだ結果として。


 そうやってあらゆる世界からこぼれ堕ちて、堕ちて、堕ちて、堕ちて、行きついた底が、ここウルガだった。少なくとも男はそのように自認していた。


 男が窓辺に立つと、光りが彼の日焼けした肌を照らしだしていく。その輝きは近くの港湾の朝焼け煌めく光だった。男は自嘲するように笑った。この世界は底なのかもしれない。それでも……。


 朝焼けというものは、美しいね。


 眠気を覚ますようにゆっくりと伸びをしながら、男はつぶやく。

「さぁて、本日もきっちり楽しいシノギといこうか」


 この港湾都市キシャで、男はシャヘルと名乗って活動をしている。

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