方舟に乗って

小さな頃に読んだ 大昔の洪水物語

神様が 悪に満ちた世界を 洗い流したんだって


「今と同じなんだね」 彼はそう言うかな

主人公の彼は とても正直者 だから助かった


手を伸ばしても 届かない 鞄の中 嫌なもの押し込めて

現代の悲鳴に掻き消される 希望という名の声

何も印されてない地図片手に 排気ガスに覆われた大通り歩く


ノアが僕に問い掛けた 「舵を取ってくれないかい?」

無理だよ きっと 僕はウソツキだから

これは君の舟だから 君じゃないと

ノアから舵を奪い取って 傷付け合った 僕達だから


方舟に乗って 辿り着いた場所

彼が最初の人間 子供の頃に読んだ 洪水物語


どんなに叫んでも 届かない 綺麗なものだけ集めて 涙流した

沈黙した大都会の空から 聞こえる悲観の歌

壊れたコンパス片手に 光奪われた大通り彷徨う


ノアが僕に問い掛けた 「君の地図を見せて欲しい」

出来ないよ きっと こんな破れた地図なんて

僕は君の地図を 奪ったんだよ

傷付け合うだけの僕ら どうして僕達を 助けたの?


「解り合えないのかな?」 君が呟いた

奪って 傷付けて また人は 過ちを繰り返す


方舟に乗った君は そっと顔を伏せた

神様は こんな世界にする為に 君を助けたんじゃないのに


ノアが僕に問い掛けた 「どうして僕は助かったの?」

正直者の君 ノアであったから

だから この方舟は 君の舟だよ

舵を返さないと 君の地図はある? 行き先は決まっているさ


正直者の君と ウソツキの僕だけど

きっと 手を繋げるよ

時を越えて もう一度 君を探しに行くよ


君に会いに行くよ

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