第3話 隠しクリアの条件
俺がぼそっとつぶやいた言葉を聞いて、女神アテネはオウム返しをした。
「隠しクリア?」
「ゲームの隠し要素として作った、高難易度のクリア条件なんです。去年発売してから、トリレガを隠しクリア条件で達成したユーザーは一人もいない」
「はぁ?そんな難しいん?」
「ゲームでは隠しクリアのコマンドも、隠しコマンドを入力しないと表示されないようにしてたんで、そもそも隠しクリアの存在を知っている人間も、やりこみまくったガチの変態か我々制作者くらいなんです」
「ゲーム作る人って、ほんまにみんなそういうことすんねんな」
「あざす///」
「ほめてないわ!」
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「で、なんで周倉が適任なん?」
「隠しクリア条件の『劉備三兄弟と義兄弟になる』は、劉備、関羽、張飛の三人が、あの有名な『桃園の誓い』をしてしまった時点でクリア失敗になるんで、タイムリミットがあるんです」
「急がなあかんってことか」
「はい。『桃園の誓い』はゲーム開始して、1か月以内に起こります。三国志演義で三人が誓いあった正確な時期は不明なんですが、桃の花が咲くのが、3月中旬から4月の上旬ということで」
「今が184年、3月のはじめやから、確かに1か月以内か」
「そして、『桃園の誓い』は、3人が出逢う涿県(たくけん)で起きる」
「
「あーえっと、マップの表示はどうすれば?」
「マップって叫びぃや」
「叫ぶんですか?んじゃ、マップ!!!」
俺が叫んだとたん、目の前に中国のマップが表示された。基本うす茶色い地図だが、目的地の涿県だけが赤く点滅している。そして自分がいるところには☆マーク。
ここは西涼(せいりょう)か。
「見ての通り、涿県は北東の端っこ。俺はいま周倉なんで、出身地の
「西涼ってことは西なんやな?」
「そう、最北西に位置。距離は」
徒歩での距離が表示された。 1,426.6 km。 所要時間は361 時間。
「直線距離ってだけやろこれ?山だの谷だの、迂回する必要もあるかもしれんし、馬にめちゃくちゃ走り続けさせて、間に合うか間に合わないかくらいちゃう?」
「ですです。だからこそ、周倉のペルソナ、『疾風のヘルメス』が活きてくるんです」
――『疾風のヘルメス』は、周倉の三国志演義内のエピソードを基にしたペルソナだ。
周倉は、一日千里を駆ける赤兎馬に匹敵する脚力で、主である関羽に付き従ったという。
「『疾風のヘルメス』は無制限に使える高速移動のペルソナ。一日で涿県までいけます」
「よかったやん。あ、でもどうや?普通に考えたら、隠しクリアは涿県の近くにいるやつらがやるやろ。絶対先越されるんちゃう?」
「そこは大丈夫です。劉備はともかく、張飛、関羽の二人は、史実・演義の性格に準拠させているため、友好武将が限られています」
「友好武将?」
俺は女神アテネに、張飛の友好武将と関羽の友好武将について説明した。
関羽
・劉備
・張飛
・張遼
・徐晃
・関平
・関興
・関索
・趙累
・孫乾
・趙雲
・費詩
・曹操
・周倉
張飛
・劉備
・関羽
・張苞
・張紹
・厳顔
・龐統
・雷銅
・趙雲
「これが関羽・張飛の友好武将です」
「有名な武将なのに、意外に仲良いやつ少ないんやな」
「関羽はプライドが高くて弱者には優しいが、身分の高い人、立場が上の人間を基本毛嫌いして、張飛は乱暴者で、自分より弱い人間への配慮、気遣いがゼロだったんです」
「人間的に欠陥あったんやなどっちも」
「どっちも根っからの武人なので、劉備はともかく、基本的に強い人間しか認めない。だから、涿県の近くで、現状隠しクリアを達成できる可能性がある武将は、趙雲だけです」
「じゃあその趙雲に、もし誰かが転生してたらどないするん?」
「このタイミングでは趙雲は公孫瓚という君主のもとにいます。公孫瓚は趙雲を重宝していたので、当分公孫瓚のところから離れられないはず」
「あんたずいぶん詳しいやん」
「三国志が好きで会社に入ったんで」
――バンクォーの入社時の社長面接を思い出す。
社長の坂東幸三郎(ばんどうこうざぶろう)の白髪のオールバック。オオカミのような鋭い眼力。
「吉川君は、三国志が好きかね?」
「はい!」
「では、10の質問をする。三国志好きなら答えられるものだ。全部答えられたら採用だ」
・劉禅の幼名は?
・内ももの肉が肥え太ってしまったのを嘆いた劉備の故事成語は?
・七歩詩で有名な曹操の息子は?
・甘寧が孫権に仕える手助けをした黄祖配下の将は?
・馬玩とは、どんな武将?
・南蛮の王孟獲は何回諸葛亮に捕まった?
・三国志演義で張遼に切り殺された烏丸の大人は?
・袁紹の息子は三人の名前は?
・関羽を捕えた呉の将は?
・この子はわが家の千里の駒なりと言われた曹操の縁者は?
――懐かしいな。
「何ぼーっとしとんねん吉川」
「あ、すみません」
「それじゃ、早速行くんやな、隠しクリア達成のため」
「はい。ペルソナはどう使えば?」
「コマンド開いてAボタン押しゃあええねんけど、ペルソナって叫ぶだけでも使えんで」
「そうなんですね。よし!」
息を大きく吸い込んだ。
「ペルソナァアアアアアアアア!!!!!!!!!!!」
両足に伝令神・ヘルメスを模した翼が生える。
ブワアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!
超加速した周倉は、時速120キロで、北は涿県、劉備・関羽・張飛の元へ走り出した。
「待ってろよ劉備三兄弟!!!」
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