第3話 隠しクリアの条件

俺がぼそっとつぶやいた言葉を聞いて、女神アテネはオウム返しをした。




「隠しクリア?」


「ゲームの隠し要素として作った、高難易度のクリア条件なんです。去年発売してから、トリレガを隠しクリア条件で達成したユーザーは一人もいない」


「はぁ?そんな難しいん?」


「ゲームでは隠しクリアのコマンドも、隠しコマンドを入力しないと表示されないようにしてたんで、そもそも隠しクリアの存在を知っている人間も、やりこみまくったガチの変態か我々制作者くらいなんです」


「ゲーム作る人って、ほんまにみんなそういうことすんねんな」


「あざす///」


「ほめてないわ!」




*********************************




「で、なんで周倉が適任なん?」


「隠しクリア条件の『劉備三兄弟と義兄弟になる』は、劉備、関羽、張飛の三人が、あの有名な『桃園の誓い』をしてしまった時点でクリア失敗になるんで、タイムリミットがあるんです」


「急がなあかんってことか」


「はい。『桃園の誓い』はゲーム開始して、1か月以内に起こります。三国志演義で三人が誓いあった正確な時期は不明なんですが、桃の花が咲くのが、3月中旬から4月の上旬ということで」


「今が184年、3月のはじめやから、確かに1か月以内か」


「そして、『桃園の誓い』は、3人が出逢う涿県(たくけん)で起きる」


涿県たくけんってどこなん?」


「あーえっと、マップの表示はどうすれば?」


「マップって叫びぃや」


「叫ぶんですか?んじゃ、マップ!!!」




俺が叫んだとたん、目の前に中国のマップが表示された。基本うす茶色い地図だが、目的地の涿県だけが赤く点滅している。そして自分がいるところには☆マーク。


ここは西涼(せいりょう)か。




「見ての通り、涿県は北東の端っこ。俺はいま周倉なんで、出身地の西涼せいりょうにいるんです」


「西涼ってことは西なんやな?」


「そう、最北西に位置。距離は」




徒歩での距離が表示された。 1,426.6 km。 所要時間は361 時間。




「直線距離ってだけやろこれ?山だの谷だの、迂回する必要もあるかもしれんし、馬にめちゃくちゃ走り続けさせて、間に合うか間に合わないかくらいちゃう?」


「ですです。だからこそ、周倉のペルソナ、『疾風のヘルメス』が活きてくるんです」




――『疾風のヘルメス』は、周倉の三国志演義内のエピソードを基にしたペルソナだ。


周倉は、一日千里を駆ける赤兎馬に匹敵する脚力で、主である関羽に付き従ったという。




「『疾風のヘルメス』は無制限に使える高速移動のペルソナ。一日で涿県までいけます」


「よかったやん。あ、でもどうや?普通に考えたら、隠しクリアは涿県の近くにいるやつらがやるやろ。絶対先越されるんちゃう?」


「そこは大丈夫です。劉備はともかく、張飛、関羽の二人は、史実・演義の性格に準拠させているため、友好武将が限られています」


「友好武将?」




俺は女神アテネに、張飛の友好武将と関羽の友好武将について説明した。






関羽


・劉備


・張飛


・張遼


・徐晃


・関平


・関興


・関索


・趙累


・孫乾


・趙雲


・費詩


・曹操


・周倉




張飛


・劉備


・関羽


・張苞


・張紹


・厳顔


・龐統


・雷銅


・趙雲




「これが関羽・張飛の友好武将です」


「有名な武将なのに、意外に仲良いやつ少ないんやな」


「関羽はプライドが高くて弱者には優しいが、身分の高い人、立場が上の人間を基本毛嫌いして、張飛は乱暴者で、自分より弱い人間への配慮、気遣いがゼロだったんです」


「人間的に欠陥あったんやなどっちも」


「どっちも根っからの武人なので、劉備はともかく、基本的に強い人間しか認めない。だから、涿県の近くで、現状隠しクリアを達成できる可能性がある武将は、趙雲だけです」


「じゃあその趙雲に、もし誰かが転生してたらどないするん?」


「このタイミングでは趙雲は公孫瓚という君主のもとにいます。公孫瓚は趙雲を重宝していたので、当分公孫瓚のところから離れられないはず」


「あんたずいぶん詳しいやん」


「三国志が好きで会社に入ったんで」




――バンクォーの入社時の社長面接を思い出す。


社長の坂東幸三郎(ばんどうこうざぶろう)の白髪のオールバック。オオカミのような鋭い眼力。




「吉川君は、三国志が好きかね?」


「はい!」


「では、10の質問をする。三国志好きなら答えられるものだ。全部答えられたら採用だ」




・劉禅の幼名は?


・内ももの肉が肥え太ってしまったのを嘆いた劉備の故事成語は?


・七歩詩で有名な曹操の息子は?


・甘寧が孫権に仕える手助けをした黄祖配下の将は?


・馬玩とは、どんな武将?


・南蛮の王孟獲は何回諸葛亮に捕まった?


・三国志演義で張遼に切り殺された烏丸の大人は?


・袁紹の息子は三人の名前は?


・関羽を捕えた呉の将は?


・この子はわが家の千里の駒なりと言われた曹操の縁者は?




――懐かしいな。




「何ぼーっとしとんねん吉川」


「あ、すみません」


「それじゃ、早速行くんやな、隠しクリア達成のため」


「はい。ペルソナはどう使えば?」


「コマンド開いてAボタン押しゃあええねんけど、ペルソナって叫ぶだけでも使えんで」


「そうなんですね。よし!」




息を大きく吸い込んだ。




「ペルソナァアアアアアアアア!!!!!!!!!!!」




両足に伝令神・ヘルメスを模した翼が生える。




ブワアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!




超加速した周倉は、時速120キロで、北は涿県、劉備・関羽・張飛の元へ走り出した。




「待ってろよ劉備三兄弟!!!」

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