第2話 三つのクリア条件

「……どゆこと?」




『戦争』の女神・アテネが首をかしげる。




「これはトリレガなんです」




と俺は言う。意味わからんて、とアテネがつっこむ。




そう。




これは、三国志RPG「トリス・レガリス」なのだ。


それぞれに固有のペルソナが付与されていて、ペルソナを使いこなすのがトリレガの醍醐味であり、単純に攻撃力が高いだけでは何の足しにもならない。


しかも周倉のペルソナ『疾風のヘルメス』は、移動が早いだけ。もちろん攻撃スピードも速くなるが、武器は三節棍。玄人好みの武器で、武器マニアの同僚がノリで設定していた。


試しに腰に装備されていた三節棍を取り出す。ヌンチャクみたいに振り回してみると、すぐに遠心力の乗った三節棍が顔面を強打した。




いってえええええええええええええええええええええええ!!




鼻血がどくどく垂れてくる。




「アッハッハッハッハッハッハッ、ちょまってぇ、ボケんといてやぁ、おもろ」




女神アテネが腹を抱えて大爆笑している。


――美人なのにすげえ性格悪いな。人が鼻血ダラダラ出してんのに、ゲラゲラ笑いやがって。『戦争』の女神には常識がないのか。


ムッとしながらも、俺は手に持つ三節棍を睨みつけた。


やはり。俺自身運動音痴なのに、玄人向けで扱いの難しい三節棍を、そう簡単に使いこなせるわけがないのだ。攻撃力が高くても武器が使えなきゃ。




「……全章クリアした最初の一人しか生き返られないんですよね?」


「せやで。ま、生き返れなくても、この世界で普通に生きていく道もあるけどな」


「それはできません!嫁と娘に俺はまた会いたいんです!」


「じゃあ頑張るしかないやん?周倉で」


「ですかぁ。あ、今いるこの時代は、第一章・黄巾の乱ですよね?」


「せやで。後漢末期の184年3月。太平道のカルト教祖、張角をトップにした、全国的な農民反乱、黄巾の乱が起きた年からスタートや」




――黄巾の乱。黄巾と呼ばれる黄色い頭巾を巻いた者たちの反乱だったため、そう呼ばれている。反乱の暴徒たちは、黄巾賊と揶揄された。


この反乱が、一つの時代に終止符を打ち、三国時代の始まりを告げることに。




「じゃあクリア条件はあれか」




コマンド:クリア条件を選び、Aボタンを押す。




史実クリア『黄巾党教祖・張角の死亡』


オリジナルクリア『黄巾党教祖・張角の降伏』


隠しクリア『劉備三兄弟と義兄弟になる』




やっぱり。


第一章はチュートリアル的要素があって、初心者もクリアできるよう、1章のエリアボスである張角の史実エピソード、病死までに死ななければクリアできるように設定されている。


張角の死亡は12月。史実クリアを目指すならあと9か月。


いやいや、そんなんじゃ最短クリアできるわけない!


となると。


オリジナルクリアの条件を見る。


『黄巾党教祖・張角の降伏』


このゲームの醍醐味、ペルソナを駆使して、正面から張角を倒しにいく人向けのクリア条件。


いやぁ。病人の張角を倒して降伏させるの自体はムズくない。けど、そこまでに黄巾賊の強キャラを倒せる自信がない。そもそも俺も黄巾賊じゃん?


裏切ろうとしたら速攻殺されんじゃね?


……待てよ。




一番下の、隠しクリアの文言をじっと見る。




「あ」




俺の頭の中の霧が晴れた。




「隠しクリアなら、周倉が適任じゃん」




トリス・レガリス最速クリアの、活路が見えた気がした。

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