自社制作三国志RPG異世界に転生した社員一同、隠しクリアで全章制覇→現世生き返りを目指す!
ハチシゲヨシイエ
第1話 俺が転生した三国武将は……
――ウソだろ。
目の前にはためく、黄色の旗の数々を見て俺たちは絶句した。
――ここは、俺たちが作った三国志RPG、≪トリス・レガリス≫の世界じゃないか!
俺の名前は、吉川瑛冶(きっかわ あきや)。ゲームソフト販売・開発会社「バンクォー」のプログラマー。新卒で入社して10年、今年32歳既婚者。かわいい嫁と、もっとかわいい3歳の娘が一人いる新米パパだ。
うちの会社は主に、「三国志」関連のゲームを制作している。
代表作の三国志アクションアドベンチャーゲーム「呂布が如く」をはじめとした、三国志乙女ゲー『ガールズ三国☆決戦』や、悪魔が乗り移った武将同士で戦う『魔界三国志』、本格派歴史シミュレーション『天下三分』など、計29タイトルを生み出している。
(ちなみに俺が最初に関わったのは、軍神・関羽を育てる育成ゲーム「あにじゃといっしょ」だ。)
売上は一時期停滞したが、4年位前から盛り返している。きっかけは本格RPGで有名なライバル企業「タイタス&ロニカス」と合併したことだ。「タイタス」のRPG作りのノウハウが、うちの三国志ゲームといい具合に融合され、発表される新作は飛ぶ鳥を落とす勢いで売れて、会社は黒字。
そんな中で、昨年発売されたのが、「三国の王者(トリス・レガリス)」だ。三国志が舞台の本格RPGゲームソフト。
全10章のシナリオのなか、三国志の実在の武将を操作して、各シナリオのクリアを目指すという内容だ。有名な劉備、関羽、張飛、諸葛亮、曹操、孫権、呂布などを選ぶことも可能だが、マイナー武将を使ってクリアを目指す難易度Sレベルの縛りプレイも出来る。
最近では、ゲーム配信の実況者が、こぞってしんどい縛りプレイをして人気を博している。
――んなことはどうでもいい。どういうことだ?なんで≪トリレガ≫の世界に。
「あんたらの乗ってたバスが谷底に落っこちて、おっ死んだからやろ?」
ああそうだ。年に一度の社員旅行。伊豆の温泉に俺たちはバスで向かっていた。
4台の大型バスに分かれての移動で、俺が乗っていたバスは、同じプロジェクトメンバーや、他部署の社員合わせて53人が乗っていた。
ああ、思い出した。バスはガードレールにまっすぐ突っ込み、俺たちはジェットコースターに乗ってるみたいな浮遊感と恐怖に襲われ、最期、谷底で爆発したバスの炎に焼かれて死んだんだ。
「ドライバーの居眠り運転やったんや。あいつは地獄に落ちたから安心し」
「安心し、て言われても。てか、え?誰だあんた!?」
理解できないことが多すぎて遅くなったが、実はさっきから、大きな白い翼を生やした金髪の女が、ほんのちょっと宙に浮きながら目の前にいた。
肌の色は雪のように白く、瞳は鮮やかな青色。豊満なバストがはちきれそうになっていて、カーテンみたいな薄い布で出来た装束に身を包んでいる。
「あぁ~うち?うちは《『戦争』の女神・アテネ》や。うちのおかげで、この世界に転生できたんやで?ありがとうは?」
「『戦争』の女神?アテネ?転生?」
「ありがとうは?」
「ギリシャ神話の女神が、日本人の俺を、三国志の世界に転生させた?」
「無視すなや!もういっぺん死ぬかお前!」
「あぁ!すみません!無視はしてないです!ただいろいろ頭で整理しているのにうるさいから、聞こえてない風をよそおってました!」
「それを無視って言うんやボケ!」
「すみません!」
*********************************
「ま、そういうこっちゃ」
ざっくりと女神アテネの説明を受けた。
いわゆる異世界転生。
そしてその異世界が、我々が作ったRPGゲームを忠実に再現した疑似中国であること。
「なんで転生してんですか俺が」
「あんただけやないで?ドライバー以外に死んだやつらはみぃ~んな転生させたった」
「皆転生したんだ」
「ありがとうは?」
「それはありがとうございます本当に。でもなんで転生させてくれたんですか?」
「好きやねんあんたたち「バンクォー」のゲームが」
「まさかのうちのゲームのファン!?女神様が!?」
「一時期低迷期あったけど、よー踏ん張ったわあんたら。おもろい戦争ゲームをいっぱい作ってくれたあんたらは、うちの神様やねん」
「俺らが神様」
「せやから、転生させたったあんたらには、更にサプライズが用意してあんねん」
「え?」
「この三国志ゲームの世界、全章クリアできた最初の一人は、生き返らせたる」
「ええええええええええええええええ!!!!」
生き返れる。元の世界に戻れる。妻に。娘に会える。
「ありがとうございます!!!!!!」
「ええよ、あんたらは神様やから」
*********************************
アテネの指示のもと、俺はコントローラーを持つ手ぶりをしてみた。
女神が言ったのだ。そうすると目の前にコマンドが現れるって。
ブォン!
「本当に出た!」
「せやろ?コマンド確認してみ」
コマンドには、
・ペルソナ
・アイテム
・ステータス
・三国志辞典
・クリア条件
の5つが出てきた。やべえ。
マジでトリレガなんだ。俺は思わず感心した。
史実並びに三国志演義に準拠させただけの三国志だったら、有名武将以外でクリアするのはなかなか難しい。しかしそれでは、いろんな武将を使えるようにしても意味がない。そこで、ゲームバランスの偏りをなくし、「どの武将でもゲームクリアを出来る」ように、考えられたのが、
≪ペルソナ≫だ。
固有の特殊能力、と言ってもいい。炎攻撃付与、毒耐性、物理攻撃力2倍、瞬間移動、魔法攻撃(うちのゲームでは神通力攻撃と表現する)などなど、三国志の武将の数だけ能力を創った。
これで、無名なキャラ、マイナー武将を操作する面白みを出したんだ。頭を使えば、どの武将でもクリアはできる。
空中でAボタンを押すように、親指を押してみる。
プチェン。
入力時の音とともにペルソナの説明画面が目の前にホログラムのように浮かび上がった。
ペルソナ名『疾風のヘルメス』(体力を消費せずに高速移動が可能なペルソナ。無制限)
あ。このペルソナは。
続いてコマンドをステータスに合わせてみると、この世界での、俺の名前がそこにはあった。
『周倉しゅうそう』(所属:黄巾賊)
Lv.1
HP:3000
装備品:三節棍さんせつこん
攻撃力:81
防御力:54
機動力:95(P時:200)
神通力:32
成長速度:B
ステータスを見て、やはり、と思った。
ん~~~~~~~~~~~~、はぁ~~~~~~~周倉かぁ。
なんとも微妙な気持ちになる。一応コマンドの、三国志辞典も見ておこう。
プチェン。
周倉を検索する。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
周倉(しゅう そう)
字あざな(通称)は元福(げんふく)。
『三国志演義』『三国志平話』『花関索伝』などに登場する武将。
黄巾賊であり、親友は同じく黄巾賊の頭目である裴元紹(はいげんしょう)。
関西地方(涼州)出身。頂点に飾りがついたつば付きの帽子がトレードマーク。蜀漢の武将として知らているが、架空の人物である。そして関―――――――――――――――――
プチェン。
非表示にした。
「どないしたん?転生したキャラが気に入らないん?周倉って弱いん?」
「いや、周倉は、決して弱くはないですよ。三国志演義でも、怪力があるって描写されていたんで、攻撃力は81に設定してありますし」
「にしては喜んでないやん」
「だって、このゲームはただの歴史シミュレーションゲームじゃないから」
「……どゆこと?」
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