第3話 日本、帰国。
――後悔の多い航海、なんてくだらないこと言いたくなる航路だった。
ゴアを出て二か月、寒空の下、インド洋沖で嵐に遭って死にかけ、海上で病気に罹かかって死にかけ、
――マジでもう、二度と船には乗りたくない。
馬鹿じゃないの?と思う。何なの船。なんで木製なんだよ。令和の船なんてほとんど鉄鋼だぞマジ。木は死ぬだろマジで。
偉大な顔も知らない科学者たちのテクノロジーに俺は生かされていたんだなと改めて思う。
――マジ船乗らない。マジで船イヤだ。
そうは思ったが、祖国日本に帰るため(建前上は、キリスト教宣教のため)、明の
日本についたのは、1588年1月のことだった。
辿り着いたのは、のちの鹿児島県のはじっこ、薩摩国の
明や琉球(のちの沖縄県)との貿易で栄える港町。領主は
日本史は別に詳しくないけど、『
あれ?
「ユーリさん、お待ちしておりました」
九州の案内をしてくれる、イエズス会のディエゴ神父が少し訛りのあるポルトガル語で声をかけてきた。俺の父、ジュリアス=カーマインの昔の知人らしく、フランシスコ=ザビエルみたいに頭頂部がハゲている初老のおじさんだ。つうか歴史の教科書のザビエルそっくり。ザビエルじゃねこの人?
「嵐に遭ったと聞いたり、病に冒されたと聞いたりした時は、必死に神に祈りました」
「あぁ、ご心配いただきありがとうございます。楽しい船旅でしたよ。ちなみに今一番言われたくない言葉は、ユーリ、もう一度船に乗れ、です。ハハハ」
俺が冗談を言うと、ディエゴは笑うどころから、表情を曇らせた。
え?清貧なキリスト教ガチ勢にはジョーク通じない系?
「ああユーリさん。私も言いたくないが、貴方の安全を考えれば、もう一度地獄行きの方舟はこぶねに乗船することが、唯一の救いなのかもしれません」
「えええええ!?マジで言ってるんですか!?なんで!?」
「実は、出てしまったのです」
「出た?何がですか?」
「バテレン追放令」
「え?」
バテレン追放令。学生時代に聞いたような単語だ。え?まさか。
「私たち、キリスト教徒を、認めない、と。布教を禁ずる、と言い出したのです」
「はぁ!?いつの話ですか!?バテレン追放令なんて情報、ゴアに入ってないですよ!?」
「昨年の7月24日。ゴアにも手紙を書いたのですが、ちょうど行き違ったみたいですね。日本国の王が決めた愚かな命令です」
ザビエル似のディエゴ神父が苦々しげに頭をかきむしった。あぁ禿げちゃう。
って、え?
「日本に王なんていないはずですよ」
「現れてしまったのです。この九州を
「モンキー?猿ってことですよね?」
「そう、大坂城の天守閣で偉ぶる猿」
――まさか。
「『豊臣秀吉』です」
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