過密スケジュール

 定例会議を終え、財前は自室へと戻り、眼を休める。

 さっき立ち上がった時、眼の奥から外へと押し出されるような圧迫感があるような気がした。

 その違和感を拭うように、両手で目を覆う。手の温度で少しでも休まる気がして。


 三十分ほど休むと、視界がすっきりとしたように感じた。

 (大丈夫そうだ)

 内線ボタンを押す。


「はい、酒井です」

「特別塗装機のデザインサンプルの一覧表と、それに伴う機内食のメニューサンプルの資料を頼む」

「はい、承知しました」


 特別塗装機を新調するにあたって、機内食や販売グッズ、それにノベルティーなども合わせて商品化しなければならない。


 すぐさま必要書類を手にして現れた酒井。その手には、珈琲カップが乗せられたトレイもあった。


「機内食の試食会はいつにしますか?」

「……来週半ばで調整してくれ」

「分かりました」


 酒井から書類を受け取り、珈琲カップがデスクの上に置かれた。

 酒井はすぐさま踵を返し、部屋を後にする。


***


「本部長、自分そろそろ上がりますが、他に何かすることはありますか?」

「……いや、大丈夫だ。お疲れ様」

「では、お先に失礼します」


 二十時を回った頃、酒井が挨拶に来た。

 本来であればもう少し早くに退社してもいいのに、俺が仕事をしているせいで帰り辛いようだ。


 ASJは就航路線を増やすために、未発着の路線の開拓が目下の目標。直行便でなくとも、空港さえあれば路線は開拓出来る。

 ただ単に路線を増やすだけでは赤字になるため、それに伴う戦略が必須。

あらゆる資料を取り寄せ、現状を把握することが重要だが、やはり現地に赴いて自分の目で確かめないことには始まらない。


「やはり、日程空けるのが難しいか」


 無意識に声に出てしまうほど、スケジュール帳に記された予定はびっしりと埋まっていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る