2章 新たな門出は笑顔でリセットされる

違和感

 空高く、雲一つない澄み切った青空。頬を撫でる風も優しい。

夏の終わりを告げているのか、太陽のギラギラとした照り付けが和らいで見える。

 財前は駐機場の巡回を終え、秘書の酒井と共に定例会議へと向かう。


 終わりの見えない仕事。本部長として課せられた重責は、思ってた以上に過酷。 直近過去十年の業績をここ三年で上書きしたのだから、満足だと言えばそうなのだが。

 三百六十五日、無休の空港を相手にしているからには、それなりに求めるものが多い。財前は、体力的にも精神的にも限界に近付いている気がしていた。


「本部長っ」

「……大丈夫だ」

「少し休まれますか?」

「いや、平気だ」

「ですが……。定例会議なので、取り止めてもさほど影響はないかと」


 広大な駐機場から社屋へと入った瞬間、くらりと視界が揺れた。財前は思わず壁に手をつき、眩暈が治まるのを待つ。


 四年前に眼病が判明し、治療は継続しているが、効果は期待できず。

眼を休めて、心身ともにリラックスするのが一番だと言われても、仕事をしないわけにはいかない。いつ失明するか分からないのに後悔はしたくない、そう財前は思っている。


 このところ、繁忙期(八月)で毎日食事をゆっくり摂ることすらままならない日常だったからなのか。頻繁に頭痛や眩暈が起こり、視界が狭くなった気がする。

ふらつく俺を支える酒井が、心配そうに覗き込んで来る。


「遅刻するぞ」

「……はい」


 時間には煩い財前。というより、強迫性障害の症状の一つで、少しでも遅れるのが許せないのだ。自分に対しても他人に対しても。

 視界が鮮明になったことを酒井に目配せし、腕時計で時間を確認しながら足早に会議室へと向かう。


***


「――……――財務計画書は明後日までに」

「はい」

「今日の会議はここまでとする」


 椅子から腰を上げた、その時。眼の奥に違和感を覚えた。

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