誘われる灯り

 二十二時少し前。

 もうすぐ展望デッキがある屋上の開放時間が終わる。

 財前は事前に『今日は午前零時に自動施錠するように』と指示を出していた。

 気分転換したい時に、財前は第三ターミナルの展望デッキに行くことがある。

 それも、今日みたいに施錠時間を事前変更しておいて。


 ターミナル内を巡回し、その足で展望デッキへと向かおうとした、その時。

 一階エントランスプラザにあるクリニックの灯りがついているのが目に留まった。

 元々一階にはショップがコンビニしかなく、サービス関連のフロアということもあり、二十二時を回ろうとしているこの時間に、日中ほどの人気ひとけはない。

 財前は気付けば、クリニックの入口ドアの前に立っていた。


「診療希望ですか?」


 カーテンの奥から声が聞こえて来た。

 入口のドアをくぐったから来院を知らせる音が鳴ったのだ。


「いえ。……財前です」

「財前さん?」


 カーテンがシャーっと開けられ、聞き覚えのある声の主と視線が交わった。


「え、……体調が悪いんですか?」


 カーテンの向こうにいた彼女は、ベッドに横になり点滴をしていた。

 辺りを見回しても他にスタッフがいる気配もなく。


「過労気味なので、栄養剤してるだけです」

「……それならよかった」

「財前さんこそ、どうしてここへ?どこか具合でも悪いんですか?」

「いえ、明かりがついてたので」

「あぁ……、ここ診療時間が二十三時までなんです。受付終了が二十二時半なので、もうすぐ閉院ですけど」


 彼女は上半身を起こしてベッドに座り、クレンメで速度を速めた。


「この時間は殆ど患者さんも来ないから、いつもは掃除をしたり、翌朝の準備をしたりするんですけど。遅番四連続だったので、さすがに疲れちゃって」

「……それは大変そうですね」

「お時間あるようでしたら、そこの椅子にどうぞ」

「……では、お借りします」


財前は環医師に促され、診察用のスツールに腰掛けた。

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