おかしな質問

「先日は有難うございました」

「……いえ」


 新宿駅まで送り届けて貰った数日後。

 遅番勤務の彩葉が京急線で出勤し、一階のエントランスプラザ内にある職場へと向かっている最中、定期巡回中の財前に出くわした。


「この時間に出勤ということは、遅番ですか?」

「はい」


 親しい間柄ではないから、これと言って会話する内容が無い。

財前のすぐ後ろに秘書らしき人物がいるのが見え、彩葉は軽く会釈し、足早にその場を後にした。


***


「本部長、お知り合いなんですか?」

「……空港病院の医師だよ」

「それは、知ってますけど」


 財前と秘書の酒井が正午過ぎに第三ターミナルを巡回していると、空港病院の医師から話し掛けられた。普段巡回中に『おはようございます』みたいな挨拶はあるものの、私的な会話は殆どない。いや、皆無と言っていい。

 それは話しかけ辛い雰囲気を財前がわざと醸し出しているからだ。

仕事に必要な会話であれば当然するし、財前から声掛けし、指示を出すことなら日常茶飯事なのだが。


 秘書の酒井は、財前が私的な会話をしたことに驚きを隠せないようだ。

別にあの医師と親しいというわけではない。終電を逃した彼女を一度、自家用車に乗せ、送り届けただけ。ただ、それだけなのに。


「二人でお食事でもされたんですか?」

「は?」


 おかしな質問が返って来た。出勤時間から推測して、遅番かどうかを尋ねただけで、二人で食事に行くような仲になるものなのか?

あまりに突飛な質問に、財前の眉間にしわが寄る。


「社交辞令の会話ならともかくとして、本部長から質問されたので、特別なご関係かと思いまして」

「………」


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