質問返し

「えっ、お休み無しですかっ?!」


 思いもしない財前の返答に、彩葉は思わず驚愕して声を荒らげてしまった。


「はい。……取る気になれば取れますが、『空港』という場所は、年中無休ですから」

「それはそうですけど……」


 仕事には厳しい人だとは聞いていたが、これほどまでにストイックな人だとは思ってもいなかったのだ。


「休みを一緒に過ごす恋人でもいたら、また違うのかもしれませんが」


 彩葉は踏み込んではいけない質問をしてしまったと思い、申し訳なさに襲われた。

『本部長』という鎧を着ているだけで、この人も生身の人間なのだと知れた瞬間だった。見た目はクールだけど、彩葉はいい人そうだと思った。


「具合がよくない時とか、ちょっと調子が悪いなぁとか感じたら、いつでもいらして下さい。診察しますので」

「俺も質問していい?」

「あ、はい、どうぞ」

「恋人は?休みの日は何して過ごしてるの?趣味とか?花嫁修業とか?」

「…………」


(完全に仕返しされたよ、これ)


 財前は、彩葉が尋ねた質問をオウム返しのようにして聞き返して来た。

さらに――――。


「何故、医師を?人を救う仕事がしたくて?」

「……」

「得意料理は何?好きな音楽は?宝くじで一千万当たったら何に使う?」


 (うっわぁ~、こういう人なんだ、この人。やられたら倍返しするタイプ。さっきまでの、いい人認定は取り消しにしとこ、うん)


 彩葉は、フゥ~と小さく息を吐く。


 (けれど、先に質問したのは私だから。無視するのも失礼だし、こうして送って貰えてるのだから……)


「恋人はいません、二カ月前に別れました。休みの日は掃除洗濯買い物をしたり、録画しておいた映画を観たり。三連休取れたら近場に一人旅に出かけます」

「へぇ」

「料理は苦手です。簡単なものしか作れません。医局の勤務医してた時は連日手術に追われていたので、ぶどうや鶏肉を見ると、縫合の練習材料にしか見えなくて、笑えますよね」

「ぶどうが?……鶏肉は何となく分かるけど」

「小さい部分の薄皮状態のものを縫合するのって、かなりの技術が要るんですよ」

「へぇ」

「なので、休みの日は刃物も針も手にしないようにしてました」


 たった二カ月しか経っていないのに、オペ地獄の日々が、遠い昔のように感じた。

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