密室空間
「財前さんはいつもこんな時間にご帰宅されるんですか?」
「………そうですね、大概これくらいですかね」
「戦略企画部って、どんなことをされてるんですか?」
「え?あぁ……そうですね……」
無言だけは避けたい彩葉は、次から次へと財前に質問する。そんな彩葉の質問に、財前は前方を見据えたまま淡々と答える。
「イベントを企画したり、経営に関する職務全般に携わってるので、乗務以外のことであれば大概なんでも……ですかね」
「それって、……休む暇が無いというか、気が抜けないんじゃ?」
「まぁ、そういうポストについてますから当然だと思いますけど」
「なんだか、ストレス溜まりそうですね」
「……まぁ、それなりに」
助手席に座る彩葉は、完全に運転席の方へと体の向きを変え、あからさまに質問攻めの体勢を取る。
「休みの日は何をして過ごされるんですか?」
「へ?」
「スポーツとかします?それとも、自宅に籠る派ですか?」
「………」
「あ、恋人とデートですよね!」
「……」
いつも院内のスタッフが話題にしている財前のベールに包まれた日常(プライベート)に関して、ここぞとばかりに質問する。すると、急に口を噤む財前。
カーナビの液晶画面の光に反射したその表情は、いつも仕事で見る時の険しい顔だ。
「ごめんなさいっ、不躾な質問して。うちのスタッフが財前さんの大ファンでして、ついつい……」
顔見知りとはいえ、プライベートなことに関して話せる間柄ではない。
彩葉は失礼極まりない態度を取ってしまったと後悔した。こうして自宅へと送って貰っているというのに。
「今の質問、忘れて下さい。本当にごめんなさい」
車内に気まずい雰囲気が張り詰める。彩葉は重々しい空気に耐え切れず、視線を窓の外に移した、その時。
「恋人はいません。今は仕事が忙しいので、それどころではないですし。休日は……この半年くらいは取ってないですかね。あっても半日でしょうか。そんな日は家でゆっくり過ごしたりしてます」
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