縫合処置

「環先生、お先に失礼します」

「丸山さん、お疲れ様でした~」


 十八時を過ぎ、看護師の丸山が会釈し退勤した。


 第三ターミナルの空港病院の診療時間は、九時から二十三時まで。

 医師は三人、看護師は七人が交代で勤務している。

 丸山は既婚者で子供もいるため、非正職員で十八時までの勤務。彩葉(環医師)は独身プラス、正職員。今日は遅番の為、ラストまで勤務しなければならない。


 患者の波が一旦途切れた所で軽めの夕食を摂りながら、薬剤の発注書を記入する。薬剤発注や補充業務は遅番勤務の医師の業務になっていて、間違いがないか、何度も何度もチェックを重ねる。


***


 二十三時四十分。

 診療時間は二十三時までなので、既に閉院している時間。彩葉は帰り支度をしていた、その時。静まり返る院内に、突如内線を知らせる呼び出し音が鳴り響いた。


「はい、空港病院 医師 環です」

「遅くにすみません。整備士が足を怪我したのですが、今から診て貰えますか?」

「場所はどこですか?」

「A3格納庫なんですけど……」

「A3格納庫ですね。怪我の具合はどんな感じですか?」

「ふらついて転倒した際に大腿部を工具で切ってしまい、かなり出血してる状態です」

「ではすぐ向かいますので、清潔な布があれば服の上からでいいので患部を圧迫してて下さい」

「分かりました」


 彩葉はすぐさま応急セットを手にして、格納庫へと急いだ。


 ***


「麻酔しますね。少しチクっとしますよ?」


 格納庫に到着した環は、負傷した整備士の状態を確認し、縫合すれば大丈夫と診断した。

 幸いにも傷口はそれほど広範囲でなく、少し太めの血管を裂傷したことによる出血だった。止血しながらアレルギーの有無を確認した上で、麻酔注射を施す。

 麻酔が聞き始めるまでの間に応急セットのバックの中から精製水を取り出し、患部を洗い流した。

 

 腕時計で時間を確認した彩葉は、患部を丁寧に消毒。そして、滅菌縫合針をパックから取り出し、患部を縫合する。

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