救急搬送

「妊娠三十週で破水、多胎児なので搬送の要請をしている所です。すみません、周りの対応をお願い出来ますか?」

「分かりました。お母さん、大丈夫ですからね~」


 財前は不安に陥っている妊婦に声を掛け、肩を優しく摩った。

 そして、すぐさま近くにいるスタッフに指示を出す。


 英語やフランス語、中国語などで状況を説明しながら、少し距離を保って貰えるようにスタッフが声掛けすると、周りからは『赤ちゃんもママも頑張れ~』という声援があちこちから送られる。


「どこか痛い所はありますか?」

「………大丈夫です」

「気持ち悪くなったり、お腹が痛くなったら直ぐに言って下さいね」

「はい」

「ごめんなさいね、少し失礼しますね」


 環は折り畳んだバスタオルを妊婦の股の間に入れる。


「力まずに、タオルを足で挟んでて下さいね」

「はい」

「もうすぐ救急車が来ますからね、ゆっくり鼻で呼吸してて下さいね」

「はい」

「ご主人に連絡は?」

「破水して直ぐに連絡しました」

「こちらに向かってます?」

「はい」

「では、救急隊員が搬送先を決めたら、搬送先の病院に来て貰うといいですよ」

「はい、ありがとうございます」

「赤ちゃん、聞こえるかなぁ?まだママのお腹の中でじっとしててね~」


 胎児に話しかけるように腹部を触り、お腹の張りを確かめる。

 程なくして救急車が到着した。

 環は救急隊員に状況を申し送りし、妊婦を見送る。


「はぁ……、無事に送り出せて良かった」

「さすが、環先生」


 丸山看護師と後処理をしていると、財前が再び声を掛けて来た。


「お疲れ様です」

「迅速な対応、有難うございました」

「いえ、これが仕事なので」


 丸山が毛布やシートを片付け終わると、財前の指示でフロアの清掃と消毒が行われた。こうした緊急時の対応も、財前の仕事である。

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