病の原因

 これからフライトであろう大槻は、搭乗ゲート前で財前を呼び止めたのだ。


「結婚式の招待状送るから、来いよ」


 搭乗予定のお客様が近くにいるため大声を出すわけにもいかず、大槻は財前に近づこうと歩み寄る。

 そんな大槻を財前は片手を上げ、制止させた。


 これは『財前ルール』の追加項目。

 自身より目線が上になる相手は距離を保つ。


 三年前の一件以来、財前は強迫性障害を患っている。

 眼病が原因で幼い頃からの夢であった操縦士の夢も断たれ、恋人との不仲。

 更には無二の親友だと思ってた男は、完全に別れていない恋人を横恋慕したのだ。


 誰にも言えぬ病と闘いながら、本当であれば恋人に支えて貰いたかったのに。

 突然操縦士を辞めると言った途端に電話もメールも拒絶した彼女のへの不信感。

 突きつけられた現実を受け止めるのに、心が完全に折れてしまったのだ。


 そんなトラウマを抱えた財前は、それまで以上に自分に厳しく生きて来た。

 いつ失明するか分からないため、常に最善で完璧を求めるように。

 それが、発症の原因だ。


 常に目線が上にある大槻の存在が、精神的に病んでた財前を追い込んだ。

 秘書やウエイトレスなどが立っている状態で話す時は、視線を逸らすか目を瞑るか。決して視線を合わせることは無い。

 それほどまでに財前の精神的状態は常に不安定なのだ。


「式には行けたら……行く。期待するな」

「……ん、分かった。一華に伝えとく」


 財前は小さな溜息を吐き、大槻の顔を一瞬だけ見た、その時。

 財前の携帯が無機質な音を立てて鳴り出した。


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