シャワー借りていい?

第8話



 外はすっかり日が暮れていた。


 カーテンを開ければ、点滅する信号機の灯りが見える。


 線路を流れていく終電の電車。


 1日の終わりを告げる、夜のニュース番組。



 「…ほんとに、アカリなのか?」



 俺はまだ、信じられずにいた。


 目の前のいる彼女が、俺の知っている「子」だっていうこと。


 “約10年ぶりの再会”だってこと。


 不死川アカリは、中学時代に付き合っていた彼女のことだ。


 付き合ってたって言っても、「一週間」だけだけど。


 訳もわからず付き合って、訳もわからず別れたっけ。


 当時のことが、急に記憶の中に蘇ってきた。


 まるで、学生に戻ったような気分だった。



 「そうだよ。ね、シャワー浴びていい?」



 …は?


 シャワー??



 …待て待て


 まだ話は終わってない!



 アカリ?


 ほんとにアカリ??


 当時と見た目が変わりすぎてわからなかった。


 肌の色も違うし、髪の色だって…


 ただ、顔は当時のままだった。


 まじまじと見ると、確かに「アカリ」だった。


 髪型や雰囲気が違っているせいで、なんとなく“誰かに似てるなぁ“って感じだった。



 最初は。



 けど、表情でわかった。


 声の質でわかった。


 うまくは言えないけど、不意に思い出したんだ。


 「彼女」だっていうことが。



 俺の話も聞かず、アカリはシャワーを浴びにいった。



 …いったい何が起こってる?



 彼女が本当にアカリだとして、何しにここへ…?


 っていうか、なんでこんなことを?



 整理しようにも、どっから整理すればいいかわからなかった。



 …えーっと、…なんて言ってたっけ?



 追われてるとかなんとか



 …追われてる?



 匿ってくれって言ってたよな?



 匿うったって、…なんで?



 とりあえず警察呼んだほうがいいかな?


 アカリに違いはなさそうだけど、ナイフを持ってんだぞ!?


 状況が状況だけに、どうすればいいかもわからなくなっていた。


 そもそもどうやって侵入したのかもわかってない。


 鍵を持ってる様子もなかったし、窓はやっぱり割れてなかった。


 ワンチャン開いてた可能性もないことはないが、基本的に開けないんだよな。


 よっぽど暑い日とか、ベランダに行く時とかくらいしか。


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