第4話



 「…だ、誰!?」



 金髪ギャルは、ひとつ呼吸を置く。


 慌てる俺とは裏腹に、落ち着いた様子でソファに腰掛けた。


 まるで自分の家かのようにサッとエアコンのリモコンを持ち、ピッと電源を入れる。



 …いやいやいや


 「ピッ」じゃないんだよ


 何平然と座ってんだ??!


 ここ俺ん家なんだけど!



 「覚えてない?アタシのこと」



 …覚えてない…か?


 あんたを?



 …えーっと、どこかで会ったっけ…




 記憶を思い返してみる。



 金髪ギャル


 金髪ギャル…



 俺にはそもそも「ギャル」の友達なんていない。


 高校の頃はみんな真面目なやつばっかだったし、ヤンキー気質のあるやつはそもそも科が違った。


 友達の周りには陽気な女子のグループがいくつかあったが、俺はそういう連中とはあまり関わりを持たなかった。


 別に嫌いなわけじゃないんだが、接点があんまないっつーか、絡むような機会がなかったっていうか



 彼女は口元にマスクをしていた。


 黒いマスクだ。


 じろっと顔を覗き込むと、彼女はそのマスクを外した。


 マスクの向こうには、シャープな顎のラインと、ピンク色の薄い唇が。


 それと、顔立ちに合った鼻が、スッキリとした全体の雰囲気を形作っていた。


 “美人”だ。


 それは間違いない。



 「知らない…です」


 「ほんとに?それはショックだなぁ」



 これは新手の詐欺かなにかか?


 不法侵入を隠すために嘘をでっち上げ、俺を騙そうって魂胆なのか??


 悪いけど、俺はそこまでバカじゃない!


 どっから侵入したのかは知らないが、入る場所を間違えてしまったようだな!


 大人しくしろ!


 今警察を呼ぶから!



 「何してるの?」



 そっとポケットからスマホを取り出すと、ギャルは俺の方に銃を向けた。



 日本語を間違ってるわけじゃない。


 「銃」。


 彼女が手にしていたのは、まさしく“それ”だ。


 だけどあり得ない。


 ここは日本だ。


 銃刀法違反だし、そもそも俺は映画とかゲームとかでしか銃を見たことがない。


 銃だけど、銃じゃない。


 自然とそう思えてしまった。


 だって、そんなものが日常的に存在するはずがないんだ。


 手に入れようったって、手に入れれる場所なんてないんだし。



 …それ、エアガンだろ?


 そんなおもちゃで俺がビビると思ってんのか?


 え?



 「う、動くなッ…!」



 足がガクガク震えた。


 別に「銃」にビビってるわけじゃない。


 どうせエアガンなら、そんなものは怖くない。


 だけど、なぜか震えた。


 多分、相手が「不法侵入者」だったからだろう。


 もしも目の前にいる奴が金髪ギャルとかじゃなくガタイのいいオッサンとかなら、俺は卒倒していたかもしれない。


 まだ、相手が女子でよかった。


 これならまだ、正気を保っていられる。


 …足は震えてるが



 「警察呼ぶ気?」

 

 「当たり前だろ!」


 「これが見えないの?死にたくないでしょ?」


 「ハッ!笑わせんな。そんなおもちゃで俺がビビると思ってんのか??今すぐ呼ぶから、そこでじっとしてろ!」


 「…ああ、そうか。ここは日本だったね」



 そう言うと、彼女はポケットから折りたたみ式のナイフを取り出した。


 りんごの皮を剥く時のような、…それでいて、遠目からでも切れ味が鋭そうな…


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