第3話



 「手を挙げて」


 「…ヒッ!?」



 手を…挙げて!?


 耳の中に掠めていく、聞き覚えのない声。


 それが、「声」であったかどうかはどうでも良かった。


 何が起こったのかわからなかった。


 ここにいるのは、俺1人だけだ。


 1Kのアパートに、1つだけの鍵。


 理解が追いつかなかった。



 …あり得るはずがないんだ



 サァーっと、汗が引く感触がした。


 「息」が止まった。


 それくらい、咄嗟の反応が意識の底を突いた。



 「…アオ…イ…?」



 恐る恐る声を上げる。


 後ろに「誰」かいる


 それは間違いなかった。


 だけど、それにまず“追いつけなかった”。


 誰かいるにしても、そんなバカなことがあるはずないと思った。


 ”いる”わけがなかった。


 口から出た言葉も、ほとんど反射的だった。



 「ツバサくん…だよね?」


 「へ?」



 情けない声が上がってしまった。


 背後から聞こえてくる「声」は、俺の名前を呼んでいる。


 俺は、…そうだ。


 「ツバサ」だ。


 自分の名前を、思わず反芻した。


 …だけど、どうして…?



 「はぁ、良かった」

 


 頭の後ろに当たっていた硬い感触の「物」が、スッと消える。


 「女性」だ。


 声の主は、間違いなく女性だった。


 ただ、アオイじゃなさそうだった。


 口調も、声の色も。


 

 …ただ、だとしたら、一体…



 後ろを振り向く。


 スローモーションだ。


 バッと振り向くだけの勇気は、俺にはなかった。


 一瞬幽霊かとも思った。


 …だって、アオイじゃないなら、「誰」だって話だし




 振り向いた先にいたのは、ロングストレートの金髪…に、褐色の肌。


 デニムショートパンツに、ロゴ入りの半袖Tシャツ。


 耳にはピアスが空いていた。


 手首にぶら下げっているミサンガに、掻き上げた前髪。



 …ギャル!??



 目の前に現れた謎の「人間」は、幽霊でもなく、アオイでもなかった。



 『褐色系金髪ギャル』



 この形容詞が合っているのかどうかはわからない。


 …が、どっからどう見ても赤の他人であることは間違いなかった。



 …不審者!?



 俺はフリーズした。


 情報が錯綜しすぎてわけがわからなかった。


 つーか、誰だ!!?マジで????




 「安心して。怪しいものじゃないから」



 “怪しいものじゃないから”




 …いやいや、人の家に上がり込んでる時点で「怪しいもの」だよ


 ぶっちぎりの「怪しさ」だよ。


 弁明の仕様がないのわかる??



 …え?



 …これって犯罪だよね?



 不法侵入的な…


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