3424
ひづきすい
本編
私は記録簿を棚から抜き取り、付箋が貼られたページを開いた。万年筆にインクを吸わせて、死者数と書かれた欄に“3424”と記入した。次いで、その下の内訳欄にも、さらさらと流れるような線をなぞった。
祖国から遠く離れたこの田舎町で、私は記録係としての職を得た。前線の兵士の死傷者数、敵方の死者数、民間人の死傷者数、その他諸々の数字を、報告書に記す。給料はそれなりだが、命の危険も伴わないし、いい仕事だと私は思う。
その日、私はいつものように、報告書から報告書への書き写しの作業を、淡々とこなしていた。だが、死者数の内訳を書いているうちに、どう計算しても、各項目の合計と総死者数の数字が合わないことに気がついた。私は深く息を吐いた。この場合、野戦病院へと赴いて、数字の照らし合わせをしなければならない。私は立ち上がって、記録簿を手に、空調の効いた建物を去らなければならなかった。
外に出た瞬間、南国特有の熱波と日差しが、私を暴力的に包み込んだ。瞬時に汗が全身から噴き出し、肌と喉を灼かれる感覚に襲われた。私は記録簿を日傘代わりにして、足早に病院へと向かった。
病院には、ありとあらゆる怪我人や病人がいた。前線で被弾した兵士、赤痢に罹った民間人、地雷によって脚を喪った農夫。私はそれらの間を縫って、担当者の元へと急いだ。私は自らの身分を告げ、合計死者数の不一致を彼に伝えた。彼はしばらく記録簿を凝視した後、私を奥の死体安置所へと誘導した。
安置所には、無数の袋が置かれていた。ひとつひとつに、針金で括られたタグがついており、その中身の身分を告げていた。担当者は手元の名簿とタグとを交互に見ていって、戦死者を一人多く申告していたことを認め、謝罪した。私が安置所を出ようとしたとき、目元を涙で濡らした兵士とすれ違った。彼は担当者の制止すら振り切って、ひとつの袋を開いた。中には顔の右半分を喪った兵士が入っていた。兵士は慟哭した。袋の中の兵士は死んでいたのだ。私は病院を後にした。病院を出た後も、兵士の慟哭は耳の中で鳴り続いていた。
私は空調の効いた部屋に戻った。深くため息をついて、私は万年筆の先をインクに浸した。合計死者数に修正線を引いて、“3423”と書き直した。
3424 ひづきすい @hizuki_sui
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