八角形の舞台

江東うゆう

第1話 案内状

「同窓会にようこそ。殺人を開催いたします」


 江東えとう烏有うゆうは、ストローを噛んだまま男を見上げた。

 男のあまりに広い肩幅も、コートを着ていてもわかるほどついている筋肉も、冬のカフェには似合わない。しかも、ここのところ、名古屋で店の数を増やしているオープンカフェとなると、なおさらだった。

オープンカフェで気持ちよく過ごすには、目立たないことに限る。通行人の視界に入っても、人間である、という以外の印象を与えない程度の格好をすることが大切だ。


 が、男は目立ちすぎていた。背が高すぎるせいだろう。組んだ足は膝がテーブルにつっかえているし、大きめのマグカップも、手の平にすっぽり収まっている。


波多野はたのさん、殺人をするんですか?」


 通行人の視線を避けるために、男――波多野じゅんという――の手元を眺める。

 と、波多野が驚いたように両手を開いて、手の平をこちらに見せた。


「まさか。同窓会の案内にそうあったんだよ」

「同窓会の案内って?」

「ええと、同窓会報。そういうのあるだろ、烏有ちゃん」


 烏有は母校から送られてくる同窓会報を思い浮かべた。白くてつるつるした紙に、灰色に近い黒色で印刷がされているものだ。水に強いため、パソコンのプリンタのインクを詰め替える時、下に敷くと便利だった。万が一インクがこぼれても、簡単には紙の下まで染みない。


「同窓会報って、そんなことを書いてありますか? うちの大学のは、何日に同窓会をやります、くらいしか書いてないんですけれど」

「うちだっていつもはそうだ。だが、今回は違った。次の同窓会で殺人をいたします。こぞってお越しください」

「こぞって?」

「ともかく、そんな言葉だ。いつもと違っていたんだよ。だから、今まで行ったことのない同窓会に行って来たんじゃないか」

「へえ」


 上の空でつぶやくと、頭をはたかれた。見ると、波多野が珍しく真剣な顔をしている。


「真面目に聞け。そして、殺人が起こった。鍵のかかったホールにある、八角形の舞台の上でだ」

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