製品説明

【前提1】 高速で移動するほど、止まっているものより時間の進みが遅くなる。


【前提2】 光には速度があり、あらゆる場所に一瞬で到達できるものではない。


【前提3】 私たちは光の速度より遅い世界に存在している。


【前提4】 光より速く動くモノが存在した場合、それは光より遅い遅い時間経過を辿る。それはある一定速度を超えると私たちの時間経過よりも遅くなりうる。


【前提5】 光より速く動くモノAに対して、光より速く動くBをぶつけると、Bが射出された時点よりも遅い時間を辿るAに到達する


【前提6】 Bを受け取ったAから行きと同速度でBを返すと、Bは射出時よりも過去の時間に到達する(過去への跳躍が可能となる)


――――――

 此処に物質を光速以上に保つ未知の技術Xが存在する。Xはそれを施した任意の対象物に光速以上の速度を与える。

 Xをコントロールするデバイスには送信機と受信機があり、加速側を受信機。現実側を送信機と呼んでいる。

 加速後も送信機からは追加情報を射出出来て、受信機も当該情報の到達を待って返信が可能となる。

 なお、受信機側の返信は受信機が組み込まれた対象物自体の転移も含む。


 技術Xは六つの前提の立証後に作られた未来の技術でありタイムマシンと呼ばれるものだ。このタイムマシン技術は未来だけでなく過去への跳躍を可能としており、かつ安全性が確保されている。

 過去への跳躍を可能とした証拠はこのタイムマシン技術自体に組み込まれている。なぜなら、これは三十年後の未来から飛んできたそれを小型化、量産化したことによりできあがったモノだからである。

 つまり、この技術が過去への跳躍をできないのであれば、私たちが技術Xの原型としたタイムマシンが未来から跳躍してきたという事実自体が失われてしまうことになるのである。


―――――

 馬鹿げた説明だと思った。何の証明にもならないし、誰が聴いても怪しい。開発者を名乗る暮端という老人はタイムマシン技術の話をするときだけかくしゃくとしているがその他の時間は自分の名も名乗れず、車椅子に座っては、好きだったアニメの台詞を1話から42話まで暗唱して生活している。

 彼が興味を持つのは、タイムマシン技術、好きだったアニメ、食事、それと彼の孫が経営するという会社のことだけ。24時間のうち3時間程度しか自己を保っていられない男が完成させたという技術が果たしてまともなものであろうか。


 だが、それでも私にはその技術に縋ってでも突き止めたい事があった。だから、暮端の秘書をしている横嶋よこしまという男の誘いに乗って研究所に足を運んだ。

 藁をも掴む気持ちだったが、驚くべきコトに実験は順調に進み、私は他の人よりも少しだけ時間の進みが遅くなった。

 技術Xの説明を素直に受け取るなら私は加速していることになる。しかし、日常生活にも支障が無い。なにより座っているだけ、寝ているときなどにも時間の遅れが生じているのが不思議だった。

 暮端老人はそれを光の世界からの逸脱と延べ、横嶋は亀とアルキメデスの時間だと例えた。

 私には彼らの言葉は理解が出来なかったが、私の体は技術Xに適性があり、本格的なタイムマシン技術の運用が可能だということはわかった。

 過去への跳躍。身分や仕事を全て捨てて、この不審な研究施設に閉じこもったことで得られる逸脱した力に、その時の私は少しだけ興奮していて、そして初めに感じた警戒心を緩めてしまっていた。


―――――

 本実験の準備はとてもあっけない。手首につけたデバイスに幾つかのアップデートを加えるだけ。

 癒着までの数日間、微熱にうなされ寝込む日々が続いたが、実験当日には体調は改善し、デバイスはいつものように私の時間を表示していた。

 暮端老人が待つ実験室に入り、実験の要領を聴かされる。今回は完全版の技術Xを利用して過去への跳躍を試みる。私が着地すべきは私が研究所にやってきた当日だと聴かされた。その当日に研究所に到着した自分に出会い、彼女を研究所から遠ざけた後、実験室に戻っておいで。それさえ出来れば後の時間はどこまで遡っても進んでも構わないと、暮端老人は言う。

 私は彼に感謝を述べて、技術Xのデバイスを起動した。

 そして、彼の失敗に直面することになる。今でも思う。私はあの老人から光の世界からの逸脱。その意味を正確に問いただしておくべきだったのだ。

 選択肢を失う前に。

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