第13話
盗賊が村に到達すると混戦になった。
盗賊は二十人ほどだった。
村人と盗賊の区別が出来るか不安だったが、村人達はこざっぱりとした格好をしているのに対して盗賊達は無精ひげを生やし汚れた服を着ていた。
村人の方が多少多かったこともあり時間はかかったが盗賊達は逃げ出した。
ケイが加勢するまでもなく村人達だけでも十分盗賊を追い返せただろう。
ケイは七人殺した。
一人で殺した数としては一番多かったため村人達から賞賛を受けたが人殺しで褒められても嬉しくなかった。
若者達は逃げていく盗賊を追おうとしたが、
「深追いはするな!」
と言うリーダー格の村人の言葉に若者達は足を止めた。
村人の中にも死者や負傷者が出た。
翌日、死んだ村人の葬儀が行われた。
葬儀にはケイ達も参列した。
葬儀の後は見張り以外の村人全員が広場に集まって食事をした。
食事は昨日の宴会の残り物らしかった。
盗賊を警戒したのと、葬儀の後すぐたつのでは失礼になるだろうという思いからケイ達はもう何日か村に残ることにした。
数日後、ティア達は村をたって南へ向かった。
村の人達は報酬だけでいいと遠慮するケイ達に十分な食料を持たせてくれた。
これで数日は携帯食を食べなくてすむ。
南へ向かって三日ほどたった頃、遠くの方に煙が見えた。
「あれ、煙よね?」
「伏せろ!」
ケイはティアを押し倒した。
ラウルも伏せている。
あれはティアがアドバイスに行っていた村のある辺りだ。
「何よ。どういうこと?」
「俺達は追われてるんだ。普通じゃないことがあったら警戒した方がいい」
ケイはそう言うとラウルの方を向いた。
「ティアと一緒にここにいてくれ。様子を見てくる」
ケイはそう言うと草に隠れるように腰を低くして煙の方へ向かった。
やはり煙が出ていたのはティアがアドバイザーをしていた村の一つだった。
ミールの連中が村を囲み炎の中から逃げ出してくる村人を撃ち殺していた。
炎の向こういるミールの隊員が何人かは分からないから正確な人数は把握できなかったが少なく見積もっても二十人はいるだろう。
とてもケイ達になんとか出来るような人数ではない。
何より村そのものが標的だとしたらここでミールの隊員を殺して村人を逃がしても、ミールは村人を全員殺すまで何度でも隊員を送り込んでくるだろう。
それに村人を助けたら、その村人は他の村に行くだろう。
森の中で生きていくのは難しいのだから。
そして村人がどこかの村に逃げ込んだら、その村も同じ目に
手出しは出来ない。
ケイはそう結論づけるとティア達の元へ戻った。
「ミールが!?」
「盗賊じゃないの?」
ティアとラウルが同時に声を上げた。
「銃を持ってた。盗賊じゃない」
ケイが言った。
「僕達のせいかな」
「だとしたら真っ先に襲われるのは俺達が滞在していた村のはずだ」
そうは言ったもののケイとしても自信はなかった。
「あの村も豊作だったから、みんな喜んでたのに……」
ティアの言葉にケイもラウルも黙り込んだ。
思いはみんな同じだ。
特に親しい人間がいたわけではないが一緒に働いた人達だ。
そう思うとやりきれなかった。
「これからどうする?」
ラウルが訊ねてきた。
正直なところケイ達に出来ることは大してない。
連中が他の村を襲うと仮定して警告を発し村人達を逃がしたとしても、村人達が標的ならミールは一人残らず捜し出して殺すだろう。
下手に他の村に匿ってもらったらその村にも
「あの村が心配だわ。戻りましょう」
ティアが言った。
「戻っても襲撃を受けたら巻き添えを食うだけだ」
「それに狙いが僕らなら、かえって迷惑がかかるよ」
ケイとラウルが言った。
「でも……」
ティアが何を考えているのか分かった。
仲良くしていた幼い子供達の安否を気遣っているのだろう。
あんな幼い子供達まで死なせたくないのはケイも同じだ。
「俺がここで見張る。ラウルとティアは俺達がいた村の近くで隠れててくれ」
ラウルが一緒ならティアが村に入っていく心配はないだろう。
その前に止めてくれるはずだ。
「僕がここに残るよ。ケイがあの村へ行って」
ラウルが言った。
「ケイはミールに顔を知られてるでしょ。僕は知られてない。見張ってるところをミールに見つかっても通りすがりだってごまかせるよ」
「分かった。気をつけろよ」
ケイはティアを連れて村が遠くに見える辺りに戻った。
ティアは村に戻ろうとしたがケイは止めた。
遠くに、かすかに村が見える位置に小川が流れており川沿いに樹が茂っているところでケイとティアは村の様子を見ていた。
「こんな遠くじゃ何も分からないじゃない」
「様子を見てくる。ここを動くな」
ケイはそう言い残すと偵察に出かけた。
村の周囲を慎重に回ってみたがミールの影はなかった。
このまま連中が来なければいいが……。
もう一度注意深く周辺の様子を見てからティアを残してきた樹々のところへ戻った。
「今のところ……」
樹々の間を抜けて小川のほとりに出るとティアが上半身裸だった。
「なっ!」
「きゃーーーーー!」
ティアが持っていた服で胸を隠しながらしゃがみ込んだ。
ケイが背を向ける。
冷や汗が流れ、心臓が暴れ回って飛び出しそうだった。
いくら振り払おうとしてもティアの裸が目に焼き付いてしまって消えなかった。
しばらくティアの顔はまともに見られそうにない。
「なんでこんな時に水浴びなんか……」
「木の後ろに回ろうとして川に落ちちゃったのよ」
しばらく着替えてるような
ケイはさりげなくティアに背中を向けた。
「村の周りに怪しいやつはいた?」
ティアが平静を装った声で訊ねた。
「いや、今のところはいない」
ケイもなんとかいつも通りの声で答える。
「じゃあ、村に行きましょう」
「だめだ」
「どうしてよ! こんなところからじゃ村が全然見えないじゃない」
「村に火がつけられれば煙が見える」
ケイの言葉にティアは怒った様子で歩き出した。
ケイはティアの手を引いて止めた。
それだけでも鼓動が速くなった。
「村に火がつけられるかもしれないのに、こんなところで見てろっていうの?」
ティアが怒ったように言う。
「ミールに襲われたら俺達だけじゃどうしようもない」
「だから黙ってみてるの? それならいてもいなくても同じじゃない!」
確かにティアの言う通りだ。
しかし他にどうしようもないのも事実だった。
「もっと近くに行っちゃダメなの?」
「ダメだ。これ以上近づいたら連中が来たとき見つかる」
ケイがそう言うとティアは樹に登りだした。
「おい、何するんだ」
「樹の上からならもう少しよく見えるかと思って」
無茶をするな、と止めかけて、ティアはウィリディスの追求を逃れるために樹の上で三日も過ごしたくらいなのだから問題ないだろう、と思い直した。
それでティアの気が済むならやらせておこう……。
そう考えた直後、
「きゃあ!」
悲鳴と共に樹の枝が揺さぶられる音がして木の葉と共にティアが落ちてきた。
ケイは危ういところでティアを受け止めた。
弾みで二人は地面に倒れ込む。
ティアの顔が目の前にあった。
ついさっき裸を見たばかりでとてもまともに見られないと思っていたのに。
ケイは慌てて身体を起こすと顔を背けた。頬が火照っている。
多分耳まで赤くなってるだろう。動悸が速くなっている。
このままでは心臓が過労で止まってしまいそうだ。
「何やってるんだ!」
ケイはわざと怒ったような声を出した。
「しょうがないでしょ! 足が滑ったのよ!」
ティアも言い返す。
「ウィリディスに追われたとき、三日間樹の上で過ごしたって言ってたじゃないか」
「あのときは、見つからないように必死で樹にしがみついてたの!」
「樹に登るときはいつもそうしろ。いつも都合良く助けられるわけじゃないんだ」
ケイはティアに背を向けたまま言った。
「……それにしても水に落ちたり樹から落ちたり、案外そそっかしいんだな」
「悪かったわね」
ティアがむくれたような声で言った。
それから、
「ありがと」
と、やっと聞き取れるくらいの声で言った。
「いや、別に……」
「初めて助けてもらったときのお礼もまだ言ってなかったわよね。どうも有難う」
「もういい」
ケイはいたたまれなくなって、
「偵察に行ってくる」
と言い残すと、帰ってきたばかりじゃない、という突っ込みが入る前にその場を離れた。
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