第一章6話『スキャンダル案件』
――――ドクン。
なんということはない、ありふれた言葉だった。
しかしその言葉の影響力は絶大で……。
いや、この場合は話し手である声の主が凄いのだろうか。
心臓を
(全然気付かなかった。私だけじゃなくて他の二人もきっと――)
その声に部屋にいる誰もが口を閉じ、足を止めると二人がその名を呼ぶより僅かに早く、
「お姉、ちゃん…?」
「お姉ちゃん?!」
「お姉ちゃん!?」
――――誰が想像できただろうか。
己が仕える主君に姉妹がいることなど。
ましてや従者ですら知らないその事実を初めて言及したのは長年仕えた主君の口からではない。
人間の性質として、従者となった期間から以降の時間経過に比例して疑念だったものも自己判断でいつしか確信へと変わり、断定してしまう部分は少なからずあるだろう。
それを差し引いても
二人の反応も分からなくはない。
いや、何度も言うがむしろ誰が予想できただろうか。
昨日今日生まれ落ちた
だが
真偽はともかく姉として認識している以上、少女の立場からしてみれば疎外感を感じ、いたたまれないことこの上ないだろう。
(えっ? お姉ちゃんは私のお姉ちゃんで私はお姉ちゃんの妹だよ?)
従者二人の驚きと困惑の混ざった反応に
しかし
その時、
すると一人の女性が肩にかけた上着を微かに揺らしながら金魚の描かれた障子を背に凛々しく立っていた。
当然、目の前にいる女性を姉だと認識している
変なことを言った自覚は無かったが、二人の並々ならない様相に気負けした
すると妖艶な風貌の女性は一瞬で少女との距離を詰め、『しーっ』とするように人差し指を少女の口元に優しく押し当てると一方的に言葉を続ける。
「んぐっ」
「ちょい待ち、なんぼ古代樹が命を転生させる木ぃや
(また、動いたの全然わからなかった。それより妹はいないって…それじゃあ私は……)
――――存在を忘れられる。
たとえそれが悪意のない言葉であろうとも被害者側の心には深く突き刺さるものだ。
仮に本当に記憶がないのならより悪質だ。
見慣れた人物のはずなのに、相手は自分を覚えていない。
初対面のように振舞われる。
そんな扱いに絶望していると包容力のある声がゼロ距離から
(お姉ちゃん。心の中で呟くとまるで返事をしてるみたいに『チャポン』って音が返ってくるの。だから――)
「――ウチの言葉聞こえとる?
故にたった一言、何の変哲もないその言葉で
話を円滑に進めるため?
あるいは不安を取り除くため?
どちらにしてもこれで多少、複雑な話でも冷静な思考で処理できるということを
おっとりとした見た目の割に吸収力は人並み以上にあるらしく、
(きっとこれから大切な話をするんだ。でも私もお姉ちゃんのことしか覚えてないし、今は……)
「それでは私たちはお邪魔にならないよう、一度退室しますね」
その一方で
「まず最初に伝えなあかんのはウチら人間は年齢と経験値が比例せえへんってことや。簡単な話、年齢は増減せえへんから割り切り。せやけど知識は経験に比例するから伸びしろあるで」
恐らくこの世界では肉体年齢と精神年齢、この二つが別個に存在するのだろう。
若干気になる
そんな少女に
「次は
「うん、さっき
「結構ざっくりやなぁ、けど
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