第一章3話『背視地行』
そんな様子を見兼ねた
その後、少女が呼び止める間もなく膜の中へと消えていく彼女の姿に少女も意を決する。
「
一方的な言葉を残して球体の水の中に消えていった彼女の直前の言葉には具体的に何とは言えないが、不思議と高揚感のようなものが感じられた。
そんな彼女が残した言葉をベースに最も自身を奮い立たせる言葉に置き換えると胸中で数回復唱する。
そうして自身にかけた自己暗示で恐怖を振り払うと一足先に球体の水の中へと入っていった心紬(みつ)に続き、覚悟を決めた
そうして飛び込んだ膜の中は水で満たされていた。
しかし水と言っても内部の全てが水というわけではなく、三歩も歩けば向こう側に出ることができる。
そのまま膜を通り抜け、出た先にはこれまで
真っ先に少女の視界に飛び込んできたのは宙に浮かぶ水を含んだ泡玉、そしてその中をまるで水槽のように優雅に泳ぐ、背に日の光を浴びた好色に輝いて見える金魚。
そして
他にも和風で長方形の建造物が横並びに続いていて、
「見てください。あれがこれから行く城、
(凄く綺麗。でも…やっぱり私、なんだか初めてじゃない気がする)
事実として、たった今さっき生まれ落ちたばかりの
にもかかわらず、目の前の光景に既視感を覚えた
今の少女もその状態に他ならず、たとえ既視感があろうとも大きな建造物に
……のだが、
心配そうな眼差しで声を掛けられ、
すると彼女は本気でそう思っていたのか「そうですか…」と言い、心なしかしょんぼりとする。
その後、気まずい空気にめっきり口数が減った二人が城下町を歩いていると様々な人々とすれ違い、
その服装は一人一人色も生地も異なっていたが、唯一共通しているのは男女共に和服を着用していることだろうか。
(わぁ~~~~! きれいな服がいっぱい! 私も着てみたいなぁ)
想像力だけはいっぱしの大人だがその思考からは幼さが垣間見えている。
しかし、なぜかそのタイミングで
「ふふっ、大丈夫ですよ。城に着いたらあなたも着れますから」
(えっ、私なにも言ってないよ?)
それはあまりにも突拍子のない言葉だった。
しかし嬉しさからこみ上げる笑みを抑えることができず、少女の顔からは拙い笑みが
それからさらに歩き続け、しばらくすると二人は立派な城門の前に到着する。
その奥には城門越しでもはっきりと見える、
最も大きな建物に圧倒され、心ここに非ずだった
「さぁ、着きましたよ。ここが
「わぁ~~~~っ! すごく大きい!!」
外観だけで言うならば、
大きく立派なその外観は和風の城以上の特徴は特に見当たらないが、屋上からは
「
会話のときの口調とはまるで違い、芯の通った張りのある
単に使い分けているだけなのだろうが、一歩間違えればご近所迷惑にもなりかねないあまりの変わり口調に
しかしそれには少女なりの
なにせ
周りに通行人がいないとはいえ、彼女の口元なんて背後にいる少女の位置から見えるはずもなかった。
――――。
彼女の呼び声は数秒間の静寂に飲まれ、やがて消散する。
しかし
彼女の開門要請から数秒が経過した後、目の前に聳える分厚く大きな木造の扉は『ギィィィ』と大きな音を立てながら開門し、中から猫耳をぴょこっと生やした一人の女性が現れる。
「――
どこか威圧感を感じさせるような、冷たい印象を感じさせる第一声だった。
初対面で部外者の
しかし口調に現れる彼女のダウナー気質は通常運転、故に素の状態の彼女に理解のある
「シエナ! 詳細はスカーフに施した刺繍の通りです。当然あなたも知っていますよね?」
「ええ、私は國を回す立場ですし当然です。そのくらい聞かなくてもわかるでしょう?」
しかし頭からぴょこんと突き出た愛らしい
(耳、ゆらゆらしてて可愛い♪)
年相応の反応と言えばそうだろうか。
まだ幼い少女と言えば可愛いものに目がないだろう。
しかし恐らく異形に分類されるだろう、シエナと呼ばれた女性はそれがコンプレックスだったのか、クルっと後方に向きを変え二人に背を向けると必要以上の会話をすることなく足元に敷き詰められた玉砂利の上をスタスタと歩いて移動し始め、そのまま一度も振り返ることなく足早に城の中へと戻っていく。
そんな彼女の後ろ姿を静かに眺めていた
――――しかし、少女は同じく抱いたもう一つの疑問を口にする。
「優しそうなのになんだか怖い。もしかして怒ってるのかな」
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