第一章2話『五芒星と氷の結晶』
「あなた、見ない顔ですね。あっ! もしかして新入りの子なのでは?」
人目も
問い掛けられている場合に備え、質問返しにはなるが一応返す言葉を考えていた
「この道を辿ってきたということは――。ふふっ、そういうことですか」
――独り言だった。
それもさっきと同じくらいの声量で二言目を口にしている。
心の声が漏れるタイプの人間も一定数存在するとは思う。
しかしこの世界では右も左もわからない赤子同然の少女の目には話のかみ合わない不審者のように映っていた。
「大丈夫なのかな……」
独り言の女性が最初の出会いで先が思いやられると言わんばかりに
しかしその呟きは聞こえていなかったのか、独り言の女性はそこには一切触れてこなかった。
その一方で独り言の女性は何か察したような表情を浮かべると子猫の首からスカーフを外し、スカーフの下に隠れていた首輪に忍ばせてある刺繍針と刺繍糸を手に取ると慣れた手つきでスカーフに刺繍を施していく。
そして刺繍を終えると道具一式をもとの場所に戻し、子猫に優しく声を掛ける。
「お願いしますね」
すると独り言の女性の言葉に呼応するように子猫の瞳は黒から黄色へと変わり、石畳の横を流れる川に溶けるようにして消えていく。
その一連に終始困惑した表情を浮かべていた
「私は
言葉は理解できるが意味はわからない。
理解の追い付いていない
「その胸元の模様、変わってますね」
不意に掛けられた身に覚えのない言葉。
当然そんな模様に心当たりのない
すると
するとそこには五芒星、そしてその中心には雪の結晶の模様が浮かび上がっていた。
(あれ、さっきまで何もなかったのに……)
原因不明の不可思議な現象に不信感を抱きつつも二人が会話を弾ませていると背後から黒く小さい影が近付いて来るのを気配で感じ、二人は同時に振り返る。
振り返った二人は同じ場所に視線を向けていて、視線の先にいたのはさっき水に溶けて消えたはずの一匹の子猫だった。
その子猫はついさっき
≪その子、城まで案内したり≫
双方共に刺繍でやりとりをしていることからスカーフでのやりとりがこの世界の主な連絡手段なのだろう。
「全く、あの人らしいですね…。それでは行きましょうか」
そう言って彼女は子猫を両腕で抱きかかえ、自身が来た方向へくるりと方向転換すると元来た道を戻っていく。
抱き上げられた子猫は彼女の腕の中でしおらしくなっていて、移動中に何度か聞こえた「ニャ~ォ」という力ない鳴き声は二人の談笑の添え物のようになっていた。
それからしばらくすると道中、談笑の中で
「
「ふふっ、それじゃあ少しだけお話しますね」
そう言って彼女は軽く空を見上げる。
そしてゆっくりと顔を下ろし、親近感を感じさせる表情で少女の顔を一瞬見るとゆっくりと口を開き、少女に求められた情報を順を追って説明し始める。
「この世界、有為には
彼女の針穴に糸を通すが如く繊細で優しい口調は警戒心の強い
笑い慣れていないのか拙い笑みだったが、それは少女が
「えぇ?! 私、何かおかしなこと言いましたか……?」
「ううん、なんでもないよっ♪」
そんな何気ないことを楽しそうに話しているといつの間にか足元の石畳はなくなっていて、
二人の周囲には人の手が加わった視界の開けた平地が広がっていて、そこには比較対象が存在し得ないほど巨大な球体の水の膜が何かを覆っていた。
水の膜を外側から見ると不思議そうに中を覗く少女の姿が鏡写しに、少し揺らめいて映っている。
まるで自分が二人いるように錯覚し、驚いた
しかしゆらゆらりと揺れる得体の知れない物体に少女は伸ばした手を寸前で引っ込めてしまう。
御爛然 いなひ @inahi17
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