第16話 吹雪、衝撃の告白
一難去って、また一難。事態はさらに悪化した。
ベトベトの靴下なら我慢すれば何とかなったが、 健康サンダルのイボイボは、走ると足裏全体を強烈に刺激する。その痛みは我慢できるものでは無かった。
とうとう万有は、あきらめて歩き出した。
「まあ、いいや俺が駆けつけても、助けにはならないし。」
万有は完全に開き直る。
「歩くぶんには、本当に気持ちがいい。足に吸い付くようにサイズもぴったりだ。本当にいい買い物ができてラッキーだった。」
うれしそうに、健康サンダルの刺激を楽しみながら、ペタペタ音をたてて、ゆっくりと歩き出した。
そのうち遠くに、例の黒塗りの車と吹雪のバイクの女性が見えてきた。
早く近づきたかったが、走るわけにもいかないので、ペタペタとゆっくり歩いて近づいて行った。
近づくにつれ、黒塗りの車のドアが引きちぎられていることと、車の乗員がいないことが分かってきた。
『事故でも起こしたかな。』と思いながら、万有はペタペタ歩いた。
吹雪と女性は無事のようで、何か言い争っている。女性は赤旗をバイクの旗竿から抜き取り、吹雪に投げつけて、そのままバイクに乗って去って行った。
吹雪はピンク色のハンドバッグと投げつけられた赤旗を無視し、万有に気づかずに、先の方へと向かって行った。万有は甘味屋の場所を知らない。吹雪は怒りで、そんな判断ができないようだ。
「あの人って、やることが滅茶苦茶なんだから。」と言いながら、目的地らしい甘味屋に入って行った。
「あー 助かった。」ほっとした様子で万有も、甘味屋に入るため、置き去りにされている旗を折りたたんで脇にはさみ、 ハンドバッグを持ち上げようと、持ち手を握った。
持ち上げようとした途端、ありえないほどの重量が手にかかった。一体、何が入っているのか気になったが、落し物ではない以上は、女性用バッグの中を確かめるのは失礼だ。『 吹雪の知り合いみたいだから、誰の物か確認して届けに行こう。』
中に入ってみると、吹雪は万有を見つけて片手を上げて席を示す。
「いた。万有こっちこっち。」
「吹雪、待たせてごめんね。実は…」
万有は、健康サンダルを履いている理由まで包み隠さずに吹雪に教えた。
「ふふ。本当に万有って楽しい人。 心の底から万有の事が大好き。」
吹雪には自分の本心を隠す気持ちはサラサラない。 月だったころは、地球に近づくこともできず、ストーカーのように周囲を回りながら、彼の体を毎日飽きることなく、なめ回すように眺めてきたのだ。
『とうとう眺めるだけでなく、直接なめ回すことができるようになった。生まれ変われて本当に良かった。神様ありがとうございます。これからは万有の体を、私が好き放題やらせてもらいます。』と太陽系神に心から感謝した。
もじもじしながら、やっと決心して吹雪は、つぶやくように言った。「あのね。実は私。お月様なんだ。」
手を合わせて、ぺこぺこしながら万有は謝った。「吹雪ごめん。 俺は男だから。 女性のデリケートな日は理解できないんだよ。隊長として、隊員の体調を確認しておく必要は感じているが、サポートはできないと思う。本当にごめんね。」
吹雪の正体告白は、万有の大きな誤解で、一瞬にして無かったことになった。
「万有を困らせることになるなら、このことはもう二度と口にしないわ。約束する。
それからさっきのバイクの女性が、紹介できなかった隊員の霜月コブシさん。今日はもどらないんですって。新人が2人も入ってきてくれたのに、あいさつも無しなんて。なんて人なの。」
どうやら二人は、あまり上手くいってないようだった。
あとは大学受験の事や、これからの事など普通の学生がするようなものになった。
「そろそろ、帰ろっか。お土産はモナカだったね。」
「いや、くるみ餅が売っている。もう気を使う必要はない 。俺の好物を買うまでだ。くるみ餅はね、枝豆を潰したアンコで、餅を包んだものなんだ。」
万有は完全に開き直った。
モナカの代わりに自分の大好物を買って、二人でゆっくりペタペタと帰路に着いた。
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