第17話 ウサギは生きていた
女性のデリケートな日が、何のことか吹雪には理解できなかった。
吹雪の股間で飼っているウサギは本当に吹雪とは別の生き物だった。神様が最近になって吹雪の股間に、ペットとし与えたものだ。
神様は良く考えて、おくびょうなウサギが怖がらないように、吹雪の空き地で一番隠れやすい場所を選び、顔だけを出して、生きていけるようにしてやった。
吹雪はそれまで、お人形のようにツルツルだったので、そういう話は他人事で聞き流してきた。ウサギが住み着くまで、あるはずのものは何もなかった。
ペットを飼うのと同じで、吹雪のウサギが何を感じているかは、注意深く観察して、吹雪自身で予想するしかなかった。
・粘液を垂れ流し、よろこぶか。
・血を吐き出して、痛がるか。
・鼻水を噴射して、おびえるか。
3つの反応しかない上に、1日中ほとんど、すごくよろこんでいるので予想は簡単だった。
吹雪が最初にニンジンを食べさせた時は、やり方が分からずに、ドアノブを回す要領で左右に何度も回しながら、ウサギの乾いた口に無理矢理ねじり込んでしまった。
ウサギが血を吐き痛がって暴れ回り、鼻水を噴水のように出し続け、ブルブルと恐怖に震え続けるのを見て、吹雪は心底から驚いた。
それ以降は、しっかりとウサギを可愛がってから、慎重にエサを与えるようにしている。エサが大きすぎて、血を吐き暴れ回る事はあっても、大量の血を吐き出すことは、あの時以来なくなった。
徐々にエサを大きくして、大根を一本、丸飲みできるように、ウサギをしつけるのが、今の吹雪の目標だ。
最近になって、太ももをギュッと締め付け、内股でウサギをこすりつけながら「重力低下」を使って、全速力で走るとウサギは大量のヨダレを垂れ流して大喜びする事を発見した。オムツを履きながら走る事に慣れるまでは少し時間がかかった。
トレーニングをしながらウサギを可愛がれるので、走り込みがドンドンはかどるようになった。1日中ずっと一緒にいてくれるペットがいて吹雪の毎日はとても充実している。
今の最大の課題は「はなて」の命令で、ウサギの胃袋から消化液を勢いよく、発射できるようにしつける事だ。
ウサギの消化液は、ほとんどの物を、指を差して「とかせ」と命令する事で、溶かしてしまう。どんなにあちこちに消化液がついていても、指定したものだけが溶ける。
痛がるウサギをなだめながらノドの奥まで、手を突っ込み消化液をゴリゴリとかき出して、拾ってきた鉄クズに塗りたくり、他の色々な物にも塗りたくって、鉄クズを指さし「とかせ」と命令すると鉄くずだけがグジュグジュに溶けだした。
『これが使えれば、物凄い武器になる。万有の前で、絶対に消化液を噴射してみせる!』吹雪は心に固く誓った。
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生れてすぐに、大きなモノを突っ込まれノドの中が血まみれになっていたウサギは、モノを消化吸収できなかった。「とかせ」の命令が、かからないからだ。太陽系神はウサギを扱う上で重要な事を何一つ吹雪に伝えていなかった。
・知能を持って話せる事。
・消化吸収には命令が必要な事。
・本来は、自分が、カメと追いつ追われつ抜きつ抜かれつの「かけっこ」をするために生まれたはずなのに、神が当初の目的を忘れたために、カメが最後にゴールインすると同時にカメは爆殺される事。
発声のためには、人間の声帯と同じように、自分の胃袋にためた空気で、ドーナツ状に小さな穴が空いた、ノドの入口にある薄い『乙女膜』を開閉し震わせる必要がある。
イタズラ心が起こり、声を出さずに、いいタイミングで「ワッ!」と叫んで吹雪を驚かせようと、待っていたのがいけなかった。
乙女膜は薄く、神経と血管が通っており、気をつけて扱わないと、破れてしまって激しい痛みと共に出血する。モノをノドの奥まで入れる時は充分に潤わせ慎重に挿入する必要がある。
声を出す暇もなく、いきなり乙女膜を破られ、血まみれになったノドの中に、何度もモノを激しく出し入れされた。
腹を立てた吹雪が中のモノを指差し
「お願い。頼むから溶かして」
「とかせ」と命令して、やっと地獄の苦しみから解放された。
『神様、どうか御願いです。少しの時間でもいいです。吹雪と感覚を共有させてください。』
ウサギは心から祈った。
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