第13話 黄金の手

 車と並行して走っていた吹雪は、車の後方に移動し、車とバイクの間に割り込む形で走り出した。


 このままでは魔法を発動することはできない。それをすれば、吹雪に直撃してしまうからだ。


 バイクの女性は大声で、「どきなさい!どけ!」と叫んだ。


 しかし、吹雪はどこうとしない。「重力低下」と叫び、車に両手を触れた。車の重力は低下し 地面に接地していた、タイヤの摩擦が減ることでタイヤは、むなしく空転を始める。


 車は止まった。ほっとしている様子の吹雪を無視してバイクの女性は、トランクケースからピンク色のハンドバッグを取り出し、車の方に駆け寄った。そして窓をいきなりハンドバッグで叩きだした。防弾ガラス製のようで、びくともしない。


 ハンドバッグを地面に置き彼女は、祈るように手を合わせ『黄金の手』と叫んだ。


 すると額の方から、古代文字のようなものが浮かび上がり、首の方へ向かって行った。つなぎに隠れて見えないが、その文字は、つま先まで進み、まるで、いれずみのように全身をおおっていた。


 その途端右の手が金色に、まばゆく光った。

防弾仕様の頑丈な鉄のドアに指をズブリと、粘土のように差し込み、そのまま一気に下へ降ろした。


 紙のように簡単に、ドアは引きちぎられた。運転席の男に手をかけようとした瞬間、助手席の男が身を乗り出して銃を構えたが、先に彼女の方が素早く、銃口に手を当てグシャリと銃を押しつぶした。


 黄金に光る手はそのあと、すっと光を消し、同時に体の模様も消えた。「さー、書類を渡してもらいましょうか。」言うなり運転席の男の、えり首をつかんだ。


 運転席の男は車が止まるとすぐ 、ハンドルから手を離し、座席横に置いていたアタッシュケースを左手で がっちりと、つかんでいた。


 彼女は強引にその手のひらを、開こうとしたが無理だった。そのまま、何も言わずにブチリと男の手を引きちぎった。


 その途端、アタッシュケースから煙が出た。生体反応がなくなった途端、中の書類を燃やす 仕掛けになっていた。


 今では、ほとんど電子メールが使われているが、機密書類をオンラインに載せるのは、ハッキングされる危険がある。紙での手渡しが結局一番安全だ。よほど知られてはならない内容のようだ。


 その途端2人の男は、奥歯に仕込んだ薬品のカプセルを噛み潰した。途端にズブズブと音を立て、男たちはスライムのように溶け出した。


 座席には燃えたアタッシュケースと、2人の男のグズグズになった肉の塊だけが残された。



 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る