第7話 根性論

 閉店中ではあるが気を使かい、 店内は明かりがともっていた。


 招き入れられた店内は、彼にとって初めて訪れるスナックという場所だった。事前に確認していたが 、料理と酒を出す所ではあるが、酒を飲まなければ、18歳以上から出入りできる場所のようだ。


 マスターが接客するカウンターの壁には、様々な種類の酒瓶が並べられていた。


 雰囲気良く落ち着きやすい、丁度いい広さの洒落しゃれた店内だった。壁には絵が数枚飾られている。どれもセンスが感じられる。所々には花が飾られ、全体でこの店内をさらに居心地のいいものにしている。


 新聞はスポーツ紙を含む、 各紙が置かれており、漫画雑誌や各種雑誌も、そろえられている。

 

 テレビがついてある。放送されているのは、元プロスポーツ選手の活躍を振り返る映像であった。都会は剛怪が持つ強力な邪気により、電波が乱れ使えないが、ケーブルテレビがあるので有線で受信が可能だ。


 ピンク電話と呼ばれる、硬貨を入れて通話する店鋪用の公衆電話もきちんと置かれている。


 霊力を持つ女性は携帯電話に似た機械で、個人の霊力によるが、邪気の影響を受けない霊波を200m以上は飛ばせる。


 霊波は各所に設置された受信機で中継され通話可能になる。霊力を持たない男性は携帯電話などは使えない。有線電話は今だに必需品だ。

 

 脳は性別で女性脳、男性脳に分けられ、言語野げんごやなどの位置が違う。性別で得意分野が変わってくるのもこのためだ。


 決定的な違いは、どこにでも存在する霊気を霊力に変化させる霊力野れいりょくやが男性脳には無い事だ。


 「やったのじゃー。漫画がいっぱいあるのじゃー。」そう言うなり師匠は、漫画雑誌を数冊ひっつかみ、ドスンと椅子に座って熱心に読み始めた。


 こうなると、万有は手持ち無沙汰になり何か読むものを探そうと本棚を探し始めた。そこに目を引くものがあった。


 イギリス書院が発行する科学雑誌だ。発行初期からの物がズラリとそろっている。


 万有は、まさかと思いながらも飛びついた。あった!世界のエネルギー危機を救った『根性論こんじょうろん』の論文掲載号だ。


 万有は夢中で読み始める。今では常識ではあるが、この異地球には『根性』がある。異地球に滅びをもたらす邪気に、対抗するエネルギー物質だ。


 この根性こそ太陽系神が、異地球の地表とマグマの海の間に注ぎ込んだ、上昇志向を持った精神エネルギーだった。


 邪気が地表を異地球中心部に引きずり込む事で、滅ぼそうとする力に対し、地表を引き上げ救おうとする力、それこそが根性。


 邪気と根性の綱引きの結果は、わずかではあるが、邪気の方が優勢で、下に引ずる力が強く、異地球上に存在するものは中心に引っぱられる。これが『重力』の正体だ。


 地表の上まで漏れ出した、触れる事のできない精神エネルギー体、根性を固形化し、人が利用可能なエネルギーとした物が『根性のかたまり』。


 そして固形化方法が書かれた論文こそが『根性論』だった。万有は掲載内容にどんどん引き込まれる様に読み進めた。


 世界の化石燃料は枯渇こかつしていたが、戦後にこの論文が発表されることで、近代化は進んでいった。


 石油を使うエンジンなどの内燃機関は発達せず、真っ赤に燃える根性の塊で熱された水蒸気を使う外燃機関が発達した世界。それがこの異世界現代社会だ。

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