第13話「太陽」

 太陽と炎の違いはいかほどだろうか。


 あの空の遥か向こうに白くまばゆむ太陽も、近くで見たら業火吹き荒ぶ火球なのだと伝え聞く。

 ならば炎だって太陽の仲間じゃないかと思うけれど、生憎そのふたつにはまだまだ断然たる隔たりがある。炎は太陽の仲間かもしれないが、太陽は必ずしも炎の仲間ではない──


 そこまで考えて頭を振る。考えることは得意ではない。座学よりは外に出て剣を振る方が性に合っている。

 そういうところだろうかと──「炎のようだ」と称されることはあれど「太陽のようだ」と言われたことのない私は、息を吐いた。



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「太陽は遠すぎるんですよ。だからいま目の前に立つ貴女を見ると存在すら忘れてしまう」


 むかし考えたことのあるその話題を出すと、彼はそのペラペラとよく回る口をすぐに開いた。


「太陽の表面は炎なんでしょう? それと同じですよ。太陽だって近くで見たらそれを太陽だと認識することはできず、きっと一面の炎だと思うでしょう。貴女もそうだ。顔を合わせたとき、ほとんどの人には表面の炎しか見えていない。──けど、きっと。貴女と別れたあと、遠く離れてから、あるいはずっと何年も経ってから、暗闇に立たされたときに気づくんですよ。貴女はまぎれもない太陽だ。近づきすぎて火傷した人もいるかもしれない、けどそんな馬鹿共は気にしなくていい。真っ暗で道がわからなくなったとき、それを照らし導くもの。深い雪に埋もれたとき、それを暖かく溶かすもの。ベガさん、貴女は俺の太陽です」


 彼の黒い瞳はいつものように気怠げに半分閉じていて──、けれどその視線はいつものように真っ直ぐだった。


「そして貴女が太陽なら俺は影だ。いつなんどきでも貴女の隣に立ち、海の果てでも空の果てでも、どこまでも着いていきましょう」


 なんて続ける彼に──「私の太陽はお前だよ」なんて小っ恥ずかしい言葉は、胸の内で焦がしておこう。





出演:「ライラプス王国記」より ベガ、ルイテン

20240806.NO.14「太陽」


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