第3話「神様が舞い降りてきて、こう言った。」

「ンで、そこでカミとか言うやつが舞い降りてきて争いをやめるように言ったンだと。驚いた人々は平伏ひれふし武器を放り出し、以降世の中は平和になった。つーのがあの辺りに伝わる昔話なンだってさ」

「へーえ。そりゃ随分優しい神様だ」


 真っ青な瞳が細められ、その向かいでイルは灰色の髪を揺らした。


「? 争いを止めたからか?」

「いやぁ、そうじゃないよ。もし全知全能の神ならさ、いちいちそんなこと言わないで全員ぶっ殺した方が早いだろ? けどそうしなかった」

「……カミはそういうことしないンじゃね」

「どうだか。俺のとこはするだろうね。死は平等に訪れる」


 ここより遥か北の果て。雪と氷に閉ざされた世界。人の命がいちばん安い資源の国。

 自らの故郷をそう称す彼の言葉に、イルは答えあぐねた。

 その間に彼はまたにこりと微笑みこちらを見る。


「さて、きみのとこはどうだろうね。イシス、だっけ? この国の神は争いを止めたいときどうするんだい?」

「……イシスはカミじゃねぇ。始まりの魔法使いではあるが、人間だよ」

「あはぁ、おれにはさして変わらないように見えるなぁ。閉ざされた神秘の国で1000年語り継がれるイシス魔法教会。その教祖はいったい何がしたかったんだろうね」




 出演:「ライラプス王国記」より イル、アルコル

 20240727.NO.4「神様が舞い降りてきて、こう言った。」


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