第10話

翌朝、莉子は温泉宿の窓から差し込む朝の光に目を覚ました。薄曇りの空の下、静かな山々が見え、昨晩の雨がしっとりと大地を包んでいた。目をこすりながら、莉子はゆっくりとベッドから起き上がり、静かに部屋のドアを開けた。


温泉宿の廊下を歩きながら、昨日の夜の温泉がまだ体に残っているのを感じた。肌がほのかに温かく、心もどこかゆったりとしたままだった。ロビーでスタッフに挨拶をしながら、朝温泉風呂に向かう。ホテルの露天風呂は、朝の光の中でまた違った顔を見せていた。


露天風呂に足を踏み入れると、少し冷たい空気が肌を刺すものの、お湯の温かさがすぐに身体を包み込んだ。昨晩の雨が嘘のように止み、空には朝の清々しさが広がっていた。温泉に浸かりながら、莉子はぼんやりと空を見上げた。昨日とは違う、爽やかな景色が彼女の心を少しずつ新たにしていく。


温泉に浸かると、まずは足元からじわりと温かさが伝わってきた。お湯はまろやかで、肌に触れるたびにその温度がゆっくりと体全体に広がっていく。莉子は目を閉じ、深く息を吸い込んだ。温泉の蒸気が肌にまとわりつき、体を包み込むように温かく、まるでどこまでも優しく撫でられているような感覚だった。


湯船の中で体が沈んでいくにつれて、温かいお湯が腰まで浸かり、肩、そして首元まで浸かる。その度に、体の芯から温まる感覚が広がっていき、冷えた筋肉がほぐれていくのを感じた。体の奥までじんわりと温かさが染み渡り、温泉の湯が身体に吸い込まれるような不思議な感覚を味わった。


手のひらを湯に浸けると、肌の繊細な部分が特に温まっていくのがわかる。指先から腕の先まで温かさが伝わり、まるで温泉そのものが体の中に浸透していくようだった。お湯が肌に触れるたびに、温かさがじんわりと染み込み、ひとつひとつの細胞がリラックスしていく感じがした。


湯船に体を預けて目を閉じると、背中や肩、腰といった部分がしっかりと温められ、体中の隅々までその温もりが広がった。肩にかかる湯が首元から流れる感覚は、まるで手のひらで優しく撫でられているようで、リズムよく流れるお湯が疲れた体を癒していった。


莉子はゆっくりと肩を回し、温泉の湯に身体を委ねながら、静かな時間が流れていくのを感じていた。温かさが身体の内側から外側へと広がって、冷えた筋肉や疲れが溶けていくような、心地よい感覚が続いていった。



しばらくそのままお湯に浸かっていると、温泉の蒸気が肌を柔らかく包み込んで、心地よい。莉子は静かに湯船の中でゆったりとした時間を過ごした。


温泉から上がり、用意されたタオルで身体を拭きながら宿のスタッフからチェックアウトの案内を受ける。「ごゆっくりお過ごしくださいね」と言われ、莉子は微笑みながら頷いた。


部屋に戻ると、昨晩の雨が作った静かな風景が、まだ心に残っているのを感じた。荷物をまとめながら、自然の中で過ごしたひとときを振り返り、心がすっと落ち着いていくのを感じた。


チェックアウトを済ませると、再びあの静かな山道を自転車で下りる途中、莉子はふと「また来たいな」と思った。この場所で過ごした時間が、どこか心の中に残り続ける予感がしていた。

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