第12話

高原の避暑地のリゾートから帰る前日の朝、莉子は一人で静かな散策に出かけた。夏の終わりの高原は、朝の涼しさと心地よい静けさに包まれていた。莉子は、足元に広がる青い草原や、遠くの山々を見渡しながら、深呼吸をし、自然の清新な空気を吸い込んだ。


草むらの中を歩くと、朝露で濡れた葉っぱの上に小さな虫たちが活動しているのが見えた。莉子は、そっとその小さな生命たちを観察し、自然の中での彼らの営みがとても愛おしく感じられた。周りには、大小さまざまな花々が咲き乱れ、風に揺れる花の香りが心地よく漂っていた。


高原の小道を歩きながら、莉子は自然の飾らない美しさに感動し、心の中で静かな幸福感を感じた。風が木々の間を通り抜ける音や、遠くでさえずる鳥の声が、心を落ち着けてくれる。彼女は、しばらくの間、立ち止まって自然の音に耳を傾け、その瞬間をじっくりと味わった。


高原の小さな湖にたどり着くと、その湖面は鏡のように周りの景色を映し出し、空の青と山々の緑が美しく混ざり合っていた。莉子は湖のほとりに腰を下ろし、そこに漂う穏やかな空気を感じながら、自分の心の中を整理していった。


その時、湖のほとりで何かが輝いているのに気づいた莉子が、近づいてみると、それは小さな、形の整った石だった。莉子はその石を手に取り、じっと見つめた。石の表面には自然の模様が美しく刻まれており、何か特別な意味を持つように感じられた。彼女はその石に、自然からのメッセージが込められているような気がした。


「これ、里子に渡そう」と、莉子は閃いた。里子はこの高原の自然がどれほど美しいかを知ってもらいたかったし、この石には、自然の中で感じた思いやりや感謝の気持ちを込めることができると思った。莉子は、その石を大切に包み、自分のリュックサックの中にしまった。


「帰ったら、里子にこの石を見せて、ここでの素敵な体験を話そう」と心に決めた莉子は、高原の散策を終え、リゾートに戻る道を歩きながら、自然の中でのひとときをしっかりと胸に刻んでいた。

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