第6話
青空が広がる夏の午後、莉子は自転車に乗り、のんびりと田舎道を進んでいた。風に揺れる麦畑が両側に広がり、緑の絨毯のように続いている。自転車のハンドルをしっかり握る手には、小さな汗がにじんでいたが、彼女の顔には穏やかな笑みが浮かんでいた。
道路沿いには、時折、古い木造の家々が並び、それぞれの庭には色とりどりの花々が咲き誇っている。莉子は自転車を止めて、家々の風景や小さな小川のせせらぎに耳を傾ける。風に乗って漂ってくる草や花の香りが、心地よく鼻をくすぐった。
小川の近くには、小さな橋が架かっており、莉子はその上に立ち止まり、下を流れる水の透明さに見入った。魚が泳ぐ様子や、時折飛び跳ねる小さな虫たちが、水面に波紋を広げている。自然の美しさに心を奪われながら、莉子はしばらくその場に佇んでいた。
やがて、莉子は少し高台になった場所に辿り着いた。自転車を止め、丘の上で息を整えながら、遠くの景色を見渡す。丘の向こうには、青々とした山々が広がり、その下には小さな村がポツポツと点在している。田んぼが幾何学模様のように広がり、その中を小川が静かに流れているのが見える。
莉子はその場に腰を下ろし、バッグから水筒を取り出して一口飲んだ。冷たい水が喉を潤し、汗ばんだ体が少しずつ涼しくなっていく。風が莉子の髪を優しく撫で、彼女は目を閉じて、その瞬間を楽しんだ。広がる景色と、心地よい風の中で、時間が静かに流れていくのを感じた。
「ここにいると、気分いいな…」莉子はそんなことを考えながら、しばらくの間、静かな自然の中で自分を委ねた。どこまでも続く道、広がる風景、そしてその全てを包み込む穏やかな空気が、彼女にとって何よりも贅沢な時間だった。
莉子は再び自転車に乗り込み、ゆっくりとペダルをこぎ始める。旅の目的地は温泉。青い空と緑の大地の間を縫うようにして、莉子は自分だけの時間を楽しんでいた。道中、温泉街の風情や人々の暮らしを眺めながら、心がほっこりと温かくなるのを感じた。
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