第4話 気遣い
でも、セドリック様の言いたいことはわかりました。
ええ!わかっていますとも。
わたしを抱きたくないということは、セドリック様も白い結婚をご希望なのですね!
「シェリー、愛している」
「へっ?」
全く想像もしてなかった一言がセドリック様の口から飛び出し、わたしは思わず素っ頓狂な声をあげる。
「わたしを愛している?そんな嘘、無理に言わなくて良いですよ」
わたしを気遣ってくれた一言だとすぐにわかって、真面目と評判のセドリック様らしいと思わずクスッと笑ってしまった。
「政略結婚の私達に愛は芽生えていませんよ」
思わず、微笑んでしまう。
「わたしにお気遣い頂き、ありがとうございます。でも、わたしにはそんなお気遣いは不要ですよ。今度また、愛しているなんて言ったら離婚ですからね」
今日一番の面白いことだわ。
声を上げて笑ってしまった。
普段は無表情でよくわからない人だけど、こういう時は人を気遣う優しい言葉が言える人なんだ。
セドリック様が優しい人でよかった。
「セドリック様も仕事のために白い結婚をご希望だったんですね。さすが仕事が優秀で信頼も厚いセドリック様です!わたしの気持ちも察してくださっていたんですね!」
隣に座るセドリック様に満面の笑みを向けた。そして言葉を続ける。
「セドリック様もお仕事を愛されていますものね!わたしも仕事を愛しているのです!結婚どころじゃないですよね。仕事に集中できる環境を守るためにも、白い結婚のまま結婚生活を続けて、1年後に離婚するというのはいかがでしょうか?子どもが出来なければまわりも離婚を受け入れてくれるはずです。セドリック様が子どもはどうしても必要とされるなら他の女性と再婚をされても私は文句など一切言いません。いかがですか?」
セドリック様は仕事の時のように無表情でわたしの提案に口を挟まずに黙って最後まで聞いてくださった。
「…どう…したら…」
セドリック様が小声でなにかを呟いて突然、わたしの両肩を掴まれた。
「えっ???」
あっという間に、セドリック様の顔が近づいてきたかと思ったら逃げることもできず、唇に柔らかいものが当たった。
セドリック様の唇が離れたのは一瞬で、また柔らかい唇にわたしの唇が奪われる。
これがキスというもの?
「んんっ」
「シェリー…」
至近距離から熱を帯びた艶っぽい低い声で名前を呼ばれると、からだの奥をぐっと掴まれるような感じたことのない感覚に襲われる。セドリック様の舌がわたしの口に優しく割って入ってきた。
わたしの両肩を掴んでいたセドリック様の指に力がこもる。
セドリック様の舌がわたしの舌を捕らえると、愛おしいものに出会えたかのように情熱的に絡めてくる。
わたしは初めてのキスでどうして良いのかわからず、口の中でされるがままだ。
唇が離れ、掴まれていた両肩が解放された瞬間、セドリック様に息ができないぐらい強く抱きしめられた。
そして、優しくベットに押し倒された。
(わたしを抱くつもりはなかったのでは???)
わたしの唇をセドリック様の親指が何度も往復し、セドリック様がなぜかわたしをいまにも泣きそうな表情で見つめている。
「セドリック様?」
わたしの問いかけに無言で今にもセドリック様の黒い瞳から涙がこぼれそうなのに優しく微笑まれた。
そして、また唇を奪われる。
何度も何度も執拗にわたしの舌に自分の舌を絡めてきて、わたしも初めてそれに答える。
お互いの舌の温度や厚みを感じながら夢中で絡める。
口の横から唾液がつうーーと漏れた。
セドリック様がそれを指で拭いとると、わたしを痛いほど強く抱きしめた。
「シェリーが望むなら白い結婚でいい。それに俺の愛するものがわかったら離婚してあげる」
わたしの耳元でそう言うと、「寝るぞ」と呟き、抱きしめられたまま眠ることになった。
セドリック様の愛するもの?仕事では?
とにかく生まれて初めて知った身体の火照りをどう抑えて良いかわからず、しばらく呆然としていたが、彼の温かい体温に包み込まれていると、怒涛だった今日1日の疲れが一気に出て気づけば眠りについていた。
翌朝、お腹の上に感じる重みで目が覚める。
なんだろう?と思い触って人間の腕だとわかり、昨晩を思い出した。
そうだ。わたし、結婚したんだ。
これはセドリック様の腕だ。
慌てて、セドリック様の腕をお腹から下ろし、身体を捩るとセドリック様が目を開けて起きていた。
「おはよう。よく眠れた?」
驚いて声も出ず、ひたすら頷く。
くしゃと頭を掴むように撫でられ、その手が愛おしい人に触れるようにわたしの頬を優しく撫でると、セドリック様に軽くキスをされる。
まるで愛されているみたい。
また、それに驚いて固まってしまった。
「まさかだと思うけど、シェリーは今日、出勤じゃないよね?」
「いえ、出勤です」
きっぱり答えるとその答えを聞くや否や、セドリック様は額に手を当てて大きなため息を吐き、その精悍なお顔が怖いことになっていた。
「やっぱりな。ここからか」
セドリック様がなにか不敵な笑みをわたしに向けてくる。
「セドリック様も出勤ですか?」
「出勤するかもとは伝えている」
セドリック様はそういうと、なにがそんなにおかしいのか、ひとりでくすくすと笑われた。
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